はじめての国選弁護(その2) ※旧ブログ記事転載

(2015年9月に執筆した記事です。)

「その2」では、被告人段階の弁護活動について書いていきたいと思います。

3.起訴〜公判期日まで

被疑者が起訴されると、裁判所から連絡があり、起訴状を受領しに来るように言われます。

 

被疑者の起訴により、いったん国選弁護人の職務は終了することになります。通常は自動的に被疑者国選弁護に移行するので特別な手続は必要ないのですが、法テラスとの関係では、ここでいったん報告書を提出しなければなりません。起訴後14営業日までに報告書を提出しないと、報酬が支払われないことがあるので注意が必要です。

 

被疑者の身柄は、起訴後しばらく(10営業日程度?)は警察の留置場にありますが、その後拘置所に移送されます。ぼくの場合、職場からの移動時間は留置場でも拘置所でもそう変わらなかったので、移送のことをそれほど気にしていなかったのですが、これが大きな落とし穴でした。

留置場と拘置所では、接見可能時間が違うのです。
留置場の場合、夜は20時くらいまで、事前に電話を入れれば21時以降でも可能な場合があり、かなり柔軟に対応してくれたので、通常業務を片付けた後に接見に行くことが十分可能でした。一方、拘置所の面会受付時間は16時までとなっており、これ以降に接見をすることはできません。

普通の弁護士は、昼間は打合せや訴訟期日でバタバタしており、昼間に拘置所まで行くのは難しい場合が多いでしょう。拘置所に行く回数を少なく抑えたいのであれば、拘置所に移送される間に、ある程度被告人と公判の打合せをしておく必要があります。

 

起訴から2週間程度経過すると、検察庁から証拠閲覧が可能になったとの連絡が来ます。そこで、検察庁にて証拠閲覧をすることになるのですが、その場で全ての証拠を読んで覚えるのは不可能ですので、謄写をすることになります。謄写は、備え付けのコピー機(1枚10円)ですることもできますが、謄写人に頼むこともできます(1枚35円)。ぼくは、セルフ用のコピー機が混んでいたので、請求証拠の全部について謄写人による謄写をお願いしました。

 

被告人と打合せの上、弁護方針が固まったら、公訴事実の認否や証拠意見、弁護側の請求証拠等を裁判所と検察官に伝えなければなりません。これについて方法の指定はないようです。ぼくの場合は、裁判所からは事前に期日連絡票という書面をもらっていたので、それに返信する形で連絡し、検察官に対しては電話で伝えました。

 

4.公判手続

これについては、手続の点で特に目新しいことはなく、修習で体験したことと同様でした。もちろん修習の時とは異なり、自分が弁護人として法廷で弁護活動をしなければならないという意味でのプレッシャーはありましたが、思ったよりも緊張しなかったというのが本音です。

 

被告人質問中に一点、異議を出そうか迷う場面がありました。
検察官が、証拠請求していない物証について、被告人に質問し始めたのです。かなり執拗に質問し、被告人も困惑していたので、異議を出そうか迷ったのですが、「理由はなんだっけ?公訴事実と関連性なし?議論にわたる質問?」などと考えているうちに、検察官の質問が別のポイントに移ってしまいました。

上記の点は判決理由で全く触れられていなかったので、結果的には問題なかったのですが、やはり異議を出しておくべきだったと反省しています。「異議は思い立ったらすぐに出すべし。理由は後から考える。」弁護修習で師匠が言っていたことの意味が身にしみて理解できました。

 

公判終了後、被告人と打合せをしたい場合は、裁判所地下1階の仮監置室にて面会することができます。拘置所に戻ってしまうと会いに行くのが大変ですので、公判終了後なるべく早めに仮監置室に向かう必要があります。

 

5.判決後の手続

被告人に対して執行猶予判決が出た場合、本来であればその場で身柄が解放されるべきです。ただ、拘置所で勾留中の被告人については、拘置所に戻って荷物をまとめる等の手続が必要になるので、いったん裁判所地下1階の仮監置室に戻ることになります。したがって、仮監置室にて、判決内容の説明や控訴の意思の確認、今後の手続等について、被告人と打合せを行うことになります。

 

ぼくの担当事件の判決は執行猶予付判決ではありましたが、訴訟費用は被告人負担となっていました。国選刑事事件の場合、訴訟費用には国選弁護人の報酬も含まれるので、民事と違って結構な金額になります。

ぼくの被告人は職もなくお金もそれほど持っていなかったので、訴訟費用の免除申立てをすることになりました。この免除の申立ては判決確定後20日以外に行う必要があり(刑訴法500条)、確定後ですので弁護人がこれを行うことはでず、被告人本人にやってもらう必要があるという点に注意が必要です。

 

以上、必ずしも網羅的ではありませんが、国選刑事弁護について経験したことを備忘を兼ねて書いてみました。初めて刑事弁護を受任される方のお役に立てましたら幸いです。

はじめての国選弁護(その1) ※旧ブログ記事転載

(※2015年9月に執筆した記事です。)

7月に初めて受任した国選刑事事件が、第1審判決の確定をもって終了しました。

結果は、執行猶予付判決。同種前科がいくつかあり、ほぼ実刑確実と思われた事件だっただけに、執行猶予がとれて非常に嬉しかったです。

普段は企業法務ばかり扱っているので、次はいつ受任することになるかわかりませんが、備忘を兼ねて今回の事件で学んだことを軽くまとめておきたいと思います。

※東京での事件処理を前提にしていますのでご了承ください。

 

1.法テラスでの受任手続

東京で弁護士登録をすると、1年目の義務研修の一環として、国選刑事事件を1件受任しなければなりません(東弁のみ任意)。ぼくが今回受任したのも、この義務研修としての国選事件でした。

 

義務研修の場合、通常受任に優先して割り当てを受けることができ、割り当てられる事件も裁判員裁判対象事件や否認事件は除かれており、窃盗や覚せい剤事犯の自白事件(もちろん受任後否認に転じることもありえますが…)が多いようです。

 

受任の手続は、あらかじめ割り当てられた担当日に、弁護士会館3階の法テラス記録閲覧室にて行います。ここ↓

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義務研修の場合は、①13時に受付開始、②13時50分から記録閲覧・受任という流れになります。

①の受付は、②で受任する事件を選ぶ優先権(順番)を確保するために行われます。
すなわち、①で一番最初に受付を済ませた人は、②でその日の配点事件の中から、自分がやりたい事件を優先的に選べるわけです。とはいえ、②で閲覧できるのは被疑事実・被疑者の氏名・年齢・住所・認否・罪名といった勾留状に記載された事項に限られており、(当たり前ですが)事件の詳細は実際に受任しなければわからないので、優先権があるから「いい事件」を引当てられるとは限りません。

 

2.国選弁護人の選任手続〜起訴まで

法テラスでの手続が終わると、次は裁判所にて国選弁護人の選任を受ける必要があります。東京の場合、地裁(弁護士会館の裏側)1階の刑事第14部にて手続を行います。

 

その後、被疑者との初回接見を行います。

法テラスに配転されている国選対象事件は、基本的に当日勾留決定がなされた事件なので、被疑者は裁判官の勾留質問を受けた後、しばらくは裁判所地下1階の警視庁同行室に収容されています。したがって、通常は、国選弁護人の選任手続を済ませた後、すぐに同行室に向かって初回接見をすることになります。ここでの接見は時間が15分程度に限られているので、今後の手続の説明や権利告知、事実関係の聴取をスピーディに済ませる必要があります。

ちなみに、裁判所地下での接見については、いわゆる接見資料(接見に行きましたという証明書のようなもの)は発行してもらえません。ただ、裁判所地下での接見は、接見資料の添付がなくても報酬算定上「接見1回分」として認めてもらえるので心配はありません。

 

初回接見以降は、警察署の留置場にて接見を重ねることになります。

警察署での接見については、接見資料を作成しておかないと報酬算定上カウントしてもらえません。警察の方から「書かなくていいんですか?」とは言ってくれませんので、忘れないように注意しましょう。

 

なお、被疑者と接見をする中で、外部の人(家族・友人・職場の同僚・情状証人)と連絡をとる必要が出てくることがあります。被疑者がその人の電話番号やメールアドレスを覚えていればいいのですが、そうでない場合がほとんどでしょう。そのような場合、留置場の警察に事情を説明すると、押収されている携帯電話から連絡先を確認して教えてくれることがあります。この辺りは警察も柔軟に対応してくれるので、困ったら頼んでみるといいでしょう。

 

以上、まずは「その1」として被疑者段階での弁護活動について書いてみました。「その2」では被告人段階での弁護活動について書いていきたいと思います。