【書評】瀧本哲史著『僕は君たちに武器を配りたい』

GWはヒマなのでブログを更新しまくっております。笑 

さて、本日読んだ本はコチラ。京都大学准教授・瀧本哲史氏の本です。

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あえてジャンル分けするならば、いわゆる「自己啓発本」の類に属するのだと思いますが、本書は毒にも薬にもならない安っぽい自己啓発本とはワケが違います(ちなみに、瀧本氏は、昨今のいわゆる自己啓発本や勉強本のブームは「不安解消マーケティング」の産物にすぎないと一蹴しています)。

同氏の著書はこれまでにも数冊読んだことがありますが、どれもその一文一文から同氏の深い知性と鋭い感性が感じられます。東大法学部の学士助手(!)やマッキンゼー出身といった輝かしい経歴を引き合いに出すまでもなく、「真に”頭のいい人”ってこういう人のことを言うんだろうなぁ」と読み返すたびに思います。

  

瀧本氏は、「より安く、よい良い商品」が求められる資本主義社会の下では、個性のないものは全てコモディティとされる。つまり、資格やTOEICといった誰にでも取得できるもので自分を差別化しようとする限り、コモディティ化した人材となることを避けられず、最終的には「安いことが売り」の人材になるしかないと主張します。

 

そして、資本主義社会で稼げる人材のタイプとして、以下の6つを挙げています(ただ、このうち①②については、社会の劇的な変化に対応できず生き残るのが難しくなるだろうとも述べています)。 

  1. 商品を遠くに運んで売ることができる人(トレーダー)
  2. 自分の専門性を高めて、高いスキルによって仕事をする人(エキスパート)
  3. 商品に付加価値をつけて、市場に合わせて売ることができる人(マーケター)
  4. まったく新しい仕組みをイノベーションできる人(イノベーター)
  5. 自分が起業家となり、みんなをマネーじ(管理)してリーダーとして行動する人(リーダー)
  6. 投資家として市場に参加している人(インベスター)

 さらに、これからの資本主義社会で生き残っていくためには特に⑥が重要で、「市場の歪み」にいち早く察知し、そこに勝機を見い出す「投資家的な発想」が必要であるとします。なぜなら、資本主義社会では、全ての人間は、究極的には投資家になるか、投資家に雇われるか、どちらかの道を選ばざるをえないからだ、と。

 

さて、本書では、案の定というべきか「コモディティ化」する職業・スキルの一つとして、弁護士資格が挙げられています。

弁護士においても、その資格を手にすること自体には、ほとんど意味がないことがお分かりいただけただろうか。

資格や専門知識よりも、むしろ自分で仕事を作る、市場を作る、成功報酬ベースでの仕事をする、たくさんの部下を自分で管理する、というところにこそ、「付加価値」が生まれるのである。

それに対して単に弁護士資格を持っているだけの人は、まったく価値のない「野良弁」になってしまう。稼げない「野良弁」と、すごく成功している弁護士を分けるのは、弁護士資格ではなく、そうした新しいビジネスを作り出せる能力があるかどうかなのだ。

そこで求められるのは、マーケティング的な能力であり、投資家としてリスクをとれるかどうかであり、下で働く人々をリーダーとしてまとめる力があるかどうかだ。高学歴で難度の高い資格を持っていても、その市場には同じような人がたくさんいる。たくさんいる、ということならば、戦後すぐの、労働者をひと山いくらでトラックでかき集めたころとなんら違いはないのである。

「弁護士いる?弁護士。日給1万5000円で雇うよ」といった具合に。(本書148頁)

 

考えてみれば当たり前のことですが、(日本全体の人口が減少しているにもかかわらず)毎年約2000人が弁護士になる社会では資格そのものの希少性はなく、「弁護士」というカテゴリー(資格)のみで差別化できるはずがありません。また、弁護士の中でも、誰にでもできる分野(あえて具体的には挙げませんが)にいくら注力したところで、結局は価格競争にしかならないということは、今の弁護士業界を見ていても明らかなように思います。まさに、瀧本氏のいう「コモディティ化」そのものです。

一般に弁護士業界では、個々の案件に真摯に向き合い、自己研鑚を怠らずに努力し続ければ食いっぱぐれることはないという考え方が根強いように思います。私自身もそれはそれで真理だと思っていますが、今後はそれだけではダメなのだろうな、と。

 

そういった中で、今現在「たくさんいる弁護士」の一人にすぎない自分は、今後どうやって差別化を図り、生き残っていくか。個別分野のスキル(知識・経験)で差別化することが難しい(すぐにコモディティ化する)のであれば、ビジネスモデルや案件ソースによる差別化が一つの鍵になりうるのではないかと思うところですが、まだ「これだ!」という解は見つかっていません。まあ、見つかってもブログには書きませんけどね。笑

 

少し長くなりましたが、同業者の方もそうでない方も、現状に閉塞感を感じている方は、騙されたと思って本書を読まれてみてはいかがでしょうか。きっと大きな「武器」を授けてくれることでしょう。

水野祐弁護士の「情熱大陸」を視聴して

シティライツ法律事務所代表・水野祐弁護士の情熱大陸、昨晩しっかり視聴させていただきました。

 水野先生のご活躍は以前から存じあげていたつもりですが、普段のお仕事やそれに対する想いを映像としてあらためて目の当たりにすると…いやはや、「かっこいい!」の一言に尽きますね。ルックスもそうですが、何より生き方がかっこいい。

以下のように、グサグサと胸に刺さってくる言葉も多かったです。

  • 「いいものはいい、OKなものはOKだと、言えるような空気を作っていかないと。」
  • 「『法令遵守法令遵守』って言うけど、それって『思考停止』の言い換えじゃないの?」
  • 「法律の答えは言えますよ?これやっちゃダメって。でもこのカルチャーとかビジネスにおいて、もっと踏み込むべきところもあるんじゃないかって。そこが一番楽しいというか、面白みのあるところですね。」
  • 「世の中にあまりにも”良いもの”が沢山あるっている感覚があって、新しいものを生み出している人をサポートしたいっていう気持ちがありますね。それはなんでかっていうと、自分がそういうものを見たいから。で、沢山”良いもの”が出てくる、そういう世の中になってほしいと思うから。」

何より印象に残ったのが、相談者の作品を見ているとき、水野先生が目をキラキラさせて本当に楽しそうにしていたこと。その表情から、水野先生はアートやカルチャーが本当に好きで好きでしょうがなくて、自然な流れで今のお仕事のスタイルにたどり着いたのだということがよく伝わってきました。好きでやっているからこそ、まだお若いにもかかわらず、この分野のトップランナーになれたのだと。

 

最近薄々と感じているのは、専門分野に対する興味の根源が、特定の社会事象への興味や問題意識にある人は強いなということです。

私のような法学部→ロースクール→司法修習と”純粋培養”されてきた人は、ともすれば「会社法に興味があるから企業法務に」「刑事系が得意だから検察官に」「知的財産法に知財ローヤーに」という風に、法分野そのものに対する興味関心から自分の専門分野やキャリアを考えてしまいがちな面があるように思います。

しかし、そうではなくて、法分野以前の生の社会事象(水野先生でいうならアートやカルチャー)に対する「好き」「面白そう」からキャリアを考えられる人は成長が早いような気がします。まさに「好きこそものの上手なれ」で、何事もそれが好きで好きでしょうがなく、困難を困難と思わずにやっている人には敵わないのだと思います。

 

さしあたり自分にとっての「好き」「面白そう」はファイナンス・金融ですが、水野先生と同じくらいのレベルで没頭できているか、その分野の(法律家ではない)プレーヤーの人から真に信頼されるような仕事ができているか、常に自問しながら日々の業務に励んでいきたいと思いました。

 

【書評】磯崎哲也著『起業のファイナンス』

久しぶりにまとまった時間が取れたので、GWは読書に没頭しています。本日読んだのはこちら。

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(リンクを貼って気付きましたが、増補改訂版が出ていたのですね…。今回私が読んだのは前から持っていた初版ですので、ご了承ください。増補改訂版も時間があれば読ませていただこうと思います。)

 

はじめて本書を読んだのは司法修習生の時でしたが、その後実務に出て、ファイナンス契約やジョイントベンチャー契約・株主間契約の実務をそれなりに経験した今あらためて読み返してみると、当時とは頭の入り方が全然違います。何度も頷きながら、楽しんで読めました。まさに「百聞は一見に如かず」です。

 

法的な部分の記述はやや薄いですが、(特にアーリーステージの)ベンチャー企業の資金調達の全体像が平易な語り口で解説されています。そして、本書で何より『刺さる』のが、著者・磯崎氏のベンチャー企業支援を通して日本経済を発展させたいというアツい想いです。

「日本のベンチャー投資のGDP比が他の世界各国と比較して非常に小さい」というのは事実ですが、現在、規制等によって、ベンチャー企業に資金が流れない構造になっているわけではありません。必要なのは「水道管」ではなく、水をほしがる需要、すなわち「ベンチャーをやってみようという(イケてる)ヤツら」のほうなのです。

そして、土から芽を出したばかりの双葉に水をジャブジャブ与えても根が腐ってしまうだけです。水道管の末端で必要な時に必要なだけ水を散布するインテリジェントな「スプリンクラー」(ベンチャーキャピタルやエンジェルなどの投資家やベンチャー実務の専門家等)が重要なのです。

この本は、その「スプリンクラー」の構造や、それがどうすればうまく機能するかについて書かせていただきました。(本書323頁)

 

法律事務所や弁護士も重要な「スプリンクラー」の一つです。

実際に、最近、ベンチャー法務を専門とする法律事務所や(特に若手の)弁護士さんが増えてきているように思います。それ自体に全くイチャモンをつける気はありませんし、ベンチャー起業をサポートしたいという法律家が出てきていることは間違いなく望ましい流れです。

ただ、よく考えてみると「ベンチャー法務」とは何ぞや?という気もします。個々のベンチャー企業の事業内容(eコマース、SNS、コンテンツ配信、Fintech etc.)に応じた専門性というのならまだ分かるのですが、「”ベンチャー起業”に固有の法分野やリーガル的な視点ってなんだろな?」と。

その答えの一つが、ファイナンス手法の違いなのだと思います。

シンプルにいうと、大企業(特に上場企業)はデットファイナンス中心になり、いわゆるベンチャー企業はエクイティファイナンス中心になるということですが、このあたりのことは今後このブログで詳しく解説していきたいと思っているところです。

 

なお、本書に興味を持たれた方は、続編である『起業のエクイティ・ファイナンスー経済革命のための株式と契約』も併せてお読みになることをオススメします。

…と言いつつ、私はまだざっとしか読めていないので、読了次第コメントしたいと思います。。

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【書評】中村宏之著『世界を切り拓くビジネス・ローヤー ー西村あさひ法律事務所の挑戦』

書店で見かけたので、さっそく購入。ざっと通読しました。

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ベテラン新聞記者の方が、西村あさひ法律事務所(以下「NA」)の弁護士12名+秘書・パラリーガルへのインタビューを通じて「ビジネス・ローヤー」の実態に迫るという、(少なくとも私の知る限り)今までありそうでなかった書籍です。

 

12名の弁護士のインタビューはどれも非常に面白いのですが、その中でも特に印象に残ったのが、NAのマネージングパートナー・保坂雅樹弁護士のインタビューです。

 2008年にリーマン・ショックが起きて、2009〜10年は日本の我々のような法律事務所の業務もかなり停滞したというのが実感でした。また、企業側のリーガルフィー(弁護士報酬)の感覚が世界規模で大きく様変わりしました。法律や経済取引自体は常に複雑化し、リーガルニーズは増えているといえるかも知れませんが、弁護士事務所に支払うコストに関しては非常にシビアになっています。これは全世界的に法律事務所が格闘している課題です。特にリーマン・ショック後は顕著です。また大きな流れとして、企業内弁護士の増加が欧米では進んでいて、外部の弁護士との棲み分けの問題も出ています。日本でも企業内弁護士は増えています。少なくとも現時点では直ちに法律事務所の脅威になるという段階ではないと思っていますが、時間の問題なのかもしれません。

 そのほかに世界的に議論されているは、従来法律事務所でなかったプレーヤー、典型的なのは会計事務所などが法律事務所をつくるといった動きです。日本においても国際的な大手会計事務所が日本に連携する弁護士事務所法人をつくって、実際に活動を始めています。そういう意味でプレーヤーの多極化や拡大はあると思います。

 もっと根本的なのは、やはり日本の人口の減少とそれに連動する経済の縮小問題です。日本で人口が増えて、経済規模も増えていけば、大局的に見ればリーガルマーケットも拡大するはずですが、その流れとは逆になっている。(本書16〜18頁)

 

同氏は、リーマン・ショック以降のリーガルマーケットにおける大きな変化として、①リーガルフィーに対する企業側の感覚の変化、②新たな競合プレーヤーの出現(企業内弁護士・大手会計事務所)、③人口減少に伴う日本経済の縮小の3つを挙げています。

 

現状だけを見れば、①日系事務所のフィーはいわゆる外資系の法律事務所に比べればまだまだ安いですし、②企業内弁護士も会計事務所系列の法律事務所も、まだまだ日系の渉外法律事務所に質的にも人数的にも遠く及びませんし、③日本企業は手元資金を持て余しているのでしばらくはアウトバウンド案件の需要が続くでしょうから、直ちに日系渉外法律事務所が窮地に立たされるという状況にはないとは思います。

 

しかし、長期的に見れば、 上記の3つは必ず日系の渉外法律事務所を揺るがす脅威になるだろうなと、私のような若造の肌感覚としても感じているところです。個人としても、組織としても(現状私は組織を率いる立場にはありませんが笑)、10年後・20年後を見据えた戦略を考えていかなくてはなりませんね。。。

 

さて、もう一つ心に響いたのが、南賢一弁護士のインタビュー中のこの一節。

私は、師匠の松嶋英機弁護士から、入所当時、①若いうちはまず正論を考えろ、それを突き詰めたうえで解決策を考えろ。②細かいことをいちいち相談するな。本当に困ったときは相談に来い。そのときは責任を持って解決するから、それまでは自分で考え抜いて解決しろ。③地道にまじめにやっていれば、そのうち自然にその業界で有数の人間になっているものだ。あせることなく一所懸命まじめに案件に取り組め。④債権者は敵ではない。債権者をはじめとするクライアント以外の利害関係人の立場にも配慮して物事を考え、全体感を持って解決策を模索せよ、と言われました。(本書127頁)

 

うーん、いい言葉ですね。松嶋先生といえば、NAとして一つになる前のときわ総合法律事務所のファウンダーであり、倒産法分野のパイオニア的な先生ですが、やはり重鎮の先生の言葉には重みと含蓄があります。(NAの所属ではありませんが)私も、この言葉を肝に銘じて日々の業務に励んで行きたいと思いました。

 

めちゃめちゃざっくりですが、以上です。

ちょうど大手法律事務所の個別訪問やサマクラの募集が始まる時期ですので、ビジネスローヤーを目指す司法試験受験生やロースクール生の方は、本書を読まれてみてはいかがでしょうか。

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