TOEIC955点を取ってみて思ったこと。

昨年末に受験したTOEICテストで955点を取りました。

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このこと自体をドヤるつもりは全くないのですが、世の中的にはそれなりに高得点だと思われますし、これから就職活動をされる司法試験受験生・司法修習生にとってもTOEIC(英語)は関心事の一つかと思われますので、「ぶっちゃけどうなの?」というところを自作自演のQ&A方式で書いてみたいと思います。

なお、①本記事の内容はあくまでも私の超個人的な経験・感覚に基づくものであって全ての人に当てはまるとは限らない点、②2016年5月から試験形式が変更予定のため試験対策に関する部分は今後通用しなくなる可能性がある点については、何卒ご了承ください。

Q1. 955点取るまでにどのくらい勉強した?

 それなりに勉強しましたが、司法試験のようにめちゃめちゃ頑張ったという感じではないです。具体的には、週平均で3時間程度問題集を解く生活を3か月くらい続けた感じです。ただ、試験の2週間くらい前からは本番の時間感覚に慣れるため、2日で1回分の模試を解くペースで集中的に勉強しました。ちなみに、司法試験以降TOEICの本試験を受けたのは今回が初めてでした。

Q2. もともと英語が得意だったの?

全然そんなことはないです。学部生時代は550点、ロースクール生時代は785点と、いたって平凡な点数でした。英語圏への留学経験もありませんし、弁護士デビューするまで全く英語とは無縁の生活でした。ただ、大学受験時代はセンター試験で満点近く取っていた記憶があるので、「受験英語」はそれなりに得意だったのかもしれません。

Q3. 高得点を取るコツは?

とにかく出題形式とスピード感に「慣れる」ことです。イメージとしては、750点くらいまでは英語力で差がつく感じですが、それ以降は限られた時間内でどれだけ効率よく問題を捌けるかという勝負になる気がします。本当に笑えるくらい同じような問題ばかり出るので。勉強法に関しては、気が向いたら別記事で書こうと思います。

Q4. オススメの教材は?

ヒロ前田氏の「究極のゼミ」シリーズがオススメです。単語帳についてはTEX加藤氏の「金のフレーズ」を愛用していました。860点以上・900点以上にフォーカスした教材も多いですが、高得点を取るために特別な知識や技術は必要ないので(少なくとも私は何も特別なことはやってません)、基本的には一つの教材を何度も繰り返して理解することが重要だと思います。司法試験と同じですね。

Q5. 955点取って何か変わった?得したことは?

正直、あまりないですね。世間的には高得点ですので、私の本当の英語力を知らない人に対してちょっとだけドヤれることでしょうか。もし日本国内の他の事務所や企業に転職する際には、一応「英語ができる人」として評価してもらえる可能性はあるかもしれません。

Q6. 普段の業務で英語はどのくらい使う?

めちゃめちゃ使います。そもそも同じオフィスにネイティブの弁護士(米国・英国・豪州etc.)がいるので、彼らと一緒に会議に入る時は強制的に全て英語になります。 英文契約のレビューの仕事もありますし(自分でドラフトすることはまだ少ないですが)、時期によっては一日に受信するメールの半分以上が英語だったりします。キツいっす!

Q7. ぶっちゃけ、どのくらいしゃべれる?

全然しゃべれていません。まだペーペーなので、英語の会議で発言を求められることは少ないですが、 自分の見解を口頭で伝えられるレベルには程遠いです。そもそもリスニング力が不十分なので、議論自体についていけていないことも多いです。ここは本当にもどかしいです。一方、英文契約のレビューや英文のメールの作成については、(時間はかかりますが)なんとかこなせるかな、というレベルです。

Q8. TOEICの点数が高いと(司法修習生の)就職活動に有利?

(事務所の取扱分野によりますが)一般的には有利だと思います。某大規模事務所の(当時の)採用担当パートナーは、「800点以上あれば『おっ』と思うし、少なくとも書類はちゃんと読もうという気になる」とおっしゃっていました。ただ、TOEICのスコアが低い(あるいは持っていない)と不利になるかというと、そうでもないという印象です。私のようにTOEICができても実務英語はできないという人は多いですし、実務に出てから鍛えることも十分に可能ですので、他に光るモノがあれば採用するという事務所も多いと思います。

Q9. 企業法務系の弁護士はみんな英語ができる?

人によりますね。プロフィールに「取扱言語:日本語、英語」と書いてあるのをよく見かけますが、あれほとんど関係ないです。笑 留学経験があっても、ほとんど英語案件を扱わない弁護士もいれば、その逆も然りです。超個人的な感覚としては、男性弁護士よりも女性弁護士の方が(英語に限らず)総じて語学能力が高いように思います。また、少なくともスピーキングについては、外部弁護士よりも企業の法務担当者(インハウス含む)の方が総じて流暢な気がします。

Q10. 今後の目標は?

ピーキングとリスニングをもっと鍛えて、ネイティブを交えた会議で自分の意見が言えるようになることです。前者については、とにかく物怖じせずに、話題はなんでもいいからネイティブに話しかけることが重要だと思っています。また、留学したいという思いもあるので、少しづつでもTOEFLの勉強も進めていきたいと思っています(TOEICとは難易度が全く違いますので…)。英語ができれば(できるだけで)間違いなく仕事の幅が広がるので、キツくても絶対に頑張る価値はあります。

 

以上、とりあえず10個の質問にこたえる形で書いてみました。もっと「ここが聞きたい!」というのがあれば、コメント欄に書き込んでいただけるとありがたいです。

 

司法試験受験生・司法修習生の就職活動③〜一般企業(インハウス) ※旧ブログ記事転載

1 インハウスローヤー(企業内弁護士)の現状

いわゆる法律事務所ではなく一般企業等に勤務する弁護士を「インハウスローヤー(企業内弁護士)」といいますが,近年そのような弁護士が急激に増えています。2014年4月14日付日経新聞によれば,インハウスの人数が今年初めて1000人を越え,5年前と比較して約3倍に増加したそうです。

 

従来,インハウスといえば,四大事務所等において長く企業法務案件に従事したベテランの弁護士が,企業側に請われる形で移籍するケースがほとんどでした(らしいです)。現在でもそういう形でインハウスに転向される方は一定数いらっしゃるとは思いますが,ここ数年におけるインハウスの急増は,法律事務所勤務を経ることなく弁護士登録と同時に企業に就職する「新人インハウス」の増加によるものと考えられます。日本組織内弁護士協会(JILA)が実施したアンケート調査においても,インハウスのうち弁護士経験年数5年未満の者の割合が53%となっており,法律事務所での勤務経験のない者の割合も45%となっていることがわかります。

 

また,このような新人インハウスの増加を受けて,慶応大学,神戸大学等一部の法科大学院では,インハウス志望者向けの授業を開講するなどの取り組みが始まっているようです。このような流れは今後もさらに加速すると思われ,企業側はインハウスの採用数を拡大していくでしょう。

 

司法修習生の現場レベル(?)では,まだまだインハウス志望はマイノリティという印象ですが,あと数年もすれば司法修習生側の認識も確実に変わってくるだろうと思います。

 

これから就職活動をされる司法試験受験生の方は,法律事務所だけでなく一般企業も有力な進路候補として検討対象にしてみてはいかがでしょうか。

  

2 東京三弁護士会合同就職説明会の重要性

インハウスの就活において,最も重要なイベントが「東京三弁護士会合同就職説明会」です。ぼくがインハウスに興味を持ったのも,この説明でとある企業のブースに立ち寄ったことがきっかけでした。

 

この説明会には,一般企業だけでなく法律事務所もブースを出しているのですが,インハウスに少しでも興味があるのであれば,以下の理由により,一般企業のブースの方を中心に回ることをオススメします。

  • 出展企業は有名上場企業が中心であるが,インハウスの採用情報はこの説明会でしか得られない可能性が高い(HP等にインハウスの採用情報が掲載されることは基本的にない)。
  • 企業については説明会に参加したこと自体が採用上有利な事情となりうる(説明会参加をエントリーの条件とする企業もある)。これに対し,法律事務所の多くはひまわりナビやアットリーガル等でも募集をしており,説明会不参加でも応募は可能であるし,参加の事実自体が採用上有利に考慮されることはおそらくない。
  • その企業におけるインハウスの業務内容を直接聞くことができる機会は他にない。法律事務所の業務は(取扱分野の差はあれど)基本的にどこも同じようなものであるが,インハウスの業務内容は企業によってかなり異なるので,しっかり情報収集しておく必要がある。

出展企業は事前に公表されるので,その時点で具体的に応募したいと思う企業があるのであれば,その企業の事業内容や最近のニューストピックについて事前に研究して臨むといいでしょう。

 

説明会では必ず質問タイムがあります。そこで担当者に「あーこの人はウチのことをよく調べてるなあ。ウチに興味をもってくれてるんだなあ」と思わせるような質問をすることができれば,担当者から顔と名前を覚えてもらえるかもしれません。

 

ぼくの印象としては,企業側は東京三弁護士会合同就職説明会にかなり気合を入れて参加しています。いい人がいれば,その場でチェックしておくくらいのことは普通にやっているだろうと思います。そして,当たり前ですが,説明会でプレゼンや司会をしている人は,採用担当者であるなどそれなりに採用の判断に影響力を持っている人であり,後の面接で顔を合わせることになります。

 

そうであれば,良い質問をするなどして担当者にアピールしておくことは,後の選考を有利に進めるための戦略として有効だろうと思います。もし公式の質問タイムで質問しにくいようであれば,後で個人的に質問するという形でもいいでしょう(場合によってはこちらの方が効果が大きいかも)。閉会間近になると人も減ってくるので,その時間帯なら担当者を捕まえやすいかもしれません。

 

後述しますが,つまるところ企業が採用上最も重視するのは,その企業で働きたいという熱意ですから,それを具体的な行動で示しておくことは非常に重要だということですね。

 

ちなみに,今年の開催日は10月13日(月)だそうです。合格発表前後から参加法律事務所・企業が公表され,エントリー受付が始まると思いますので,忘れずにエントリーしましょう。

 

3 ひまわりナビ・転職エージェントの活用

東京三弁護士会合同就職説明会以外でインハウスの採用情報を入手する手段としては,日弁連のひまわりナビ(企業用)と転職エージェントの活用が考えられます。ひまわりナビについてはサイトを見ていただければ分かると思うので,ここでは転職エージェントの活用について説明しようと思います。

 

転職エージェントとは,その名の通り基本的には経験弁護士の「転職」をメインとする人材事業者ですが,最近は司法修習生向けの求人も増えているようです。弁護士(修習生含む)の転職エージェントとしては,MS-Japanが有名です。無料で紹介を受けられるので,登録しておいて損はないでしょう。

 

大まかな流れとしては,最初にエージェントと会って経歴や希望等に関する簡単な面談を行い,その後エージェント側から希望に合った求人が随時紹介され,エントリーしたい求人があればその旨エージェントに伝えるという感じです。ぼくは結局1件もエントリーしなかったので,その後の流れについてはよく分かりませんが,基本的には書類選考→適性試験→面接複数回という一般的な選考過程をたどるようです

 

紹介される求人には,上場企業のほか非常場企業のものも多くあります。当然ながらインハウスがいない(インハウスを初めて採用する)企業も多くあります。

このような企業では,新人弁護士が初のインハウスとなる場合,周囲の過度の期待と自分の能力とのギャップに苦しむというケースもあるようです(その代わり待遇は良かったりするのですが)。また逆に,インハウスに期待する役割が不明確なまま,とりあえず採用はしてみたものの,インハウスの使い方がわからず任せる仕事がないなどといったケースも耳にします。

しかしその一方で,自分がその企業で第1号の弁護士となるわけですから,自分の力で新しい分野を切り開き,確固たる地位を築いてその企業の法務部作り上げていくという面白さはあるかもしれません。このあたりは考え方次第といえるでしょうが,いずれにしても,いろんな企業の情報を収集しておくことは重要だと思います。

  

4 エントリシート・面接のポイント

まず,法科大学院や司法試験の成績についてですが,法律事務所の場合とは異なり,あまり重視されていないように思います。少なくとも,ぼくがエントリーした企業では,大学学部・法科大学院の成績証明書の提出は求められませんでしたし,司法試験の成績表すら提出しなくていい企業もありました。

 

逆に,語学の成績(英語・中国語)については,エントリーした全ての企業で提出を求められ,面接でも話題になったので,それなりに重視しているのかもしれません。したがって,語学以外の成績に関しては,あまり気にする必要はないでしょう。

 

企業の就活していて強く感じたことは,エントリーシートでも面接でも,つまるところ,企業側が聞きたいことはたった一つだけなのだということです。

 

それは,「なぜその企業で弁護士として働きたいと思うのか」ということです。
 

ただ,少し分析的に見てみると,この問いに答えるためには,少なくとも以下の3つの点について回答を用意しなければならないように思います。

 

①そもそもなぜ「弁護士(法曹)」になろうと思ったのか?

②なぜ「企業内で」弁護士をやりたいと思ったのか?

③なぜインハウスとして「その企業(業界)で」働こうと思ったのか?

  

①そもそもなぜ「弁護士(法曹)」になろうと思ったのか?

司法試験受験生であれば,必ず弁護士や法曹を目指そうと思った理由があるはずです。それが最初から企業法務に関連したものであれば問題ないのですが,そうでない場合には(例えば,ぼくは当初刑事弁護人を志していました),なぜ企業法務へ興味を持つに至ったのかを説明する必要があるでしょう。

 

②なぜ「企業内で」弁護士をやりたいと思ったのか?

最初から企業法務に興味があった人であれ,勉強を開始してから企業法務に興味を持つに至った人であれ,企業法務に携わる手段として最初に考えるのは,企業法務系の法律事務所に勤務することでしょう。最初から法律事務所ではなく企業に行こうと考える人は,おそらくいないのではないかと思います(もっとも,今後はそういう人も出てくるだろうと思います)。少なくとも,ぼくはそうでした。

 

にもかかわらず,現在インハウスに興味を持つに至ったのであれば,それには必ずきっかけや理由があったはずです。それを,企業は聞きたいのです。法律事務所の弁護士と企業内の弁護士との役割を比較する際には,例えば,①紛争解決⇔紛争予防,②整えられた事実関係⇔生の事実関係,③第三者的立場⇔当事者的立場,といった視点で整理してみるといいでしょう。

 

③なぜインハウスとして「その企業(業界)で」働こうと思ったのか?

最後に,インハウスといっても企業によって期待される役割や業務内容は異なるので,なぜその企業・業界を志望するのかということを説明する必要があります。

 

志望理由を述べる際に注意していただきたいのは,「大型M&Aが多い」「知財訴訟が多い」「渉外取引が多い」などといった法務マターへの興味だけに拘泥しているようでは,ちょっと視野の狭い人物に見えてしまうということです。法務は,企業にとってはどこまでいっても「手段」であって,それ自体が「目的」とはなりえません。目的と関連付けることなく,「手段に興味があります!」ということだけを前面に出しても,採用側としては「じゃあ法律事務所にいけばいいじゃん」と思ってしまうわけです。

 

法務はあくまでも手段であるということを理解した上で,法務マターへの興味を,その企業の事業内容や経営方針,商品・サービスそのものと関連付けて示すことができれば,視野の広い人物であるという評価を得られるでしょう。

法律からは少し離れて,「そもそもなぜ大型M&Aを頻繁に行う必要があるのか」,「知財訴訟で問題となっている製品はその企業の経営戦略上どういう意味を持つか」,「外国企業を選んで取引している理由な何か」,などといった点に思いを巡らせてみるといいかもしれません。大規模企業法務系法律事務所の就活と同様,日ごろから日経新聞等を読む習慣を付けておくとよいでしょう。

 

5 適性試験の対策

企業の就活をしていて最もイヤだったのが,いわゆる適性試験です。
 

どういう趣旨で行っていて,どの程度選考に影響を及ぼしているのかもよく分かりませんが,インハウスになろうとする以上,避けて通ることはできません。選考上の位置づけは企業により異なるとは思いますが,ぼくの経験上,概ね次のように考えておけばいいかと思います。

まず,面接の前に適性試験が実施される場合には,試験結果を選考上それなりに考慮していると考えてよいでしょう。おそらく,多数の応募者を形式的に絞り込むために実施しているものと考えられます。したがって,選考フローがこのようになっている場合には,しっかりと適性試験の対策を行っておく必要があります。

 

これに対し,面接の後に実施される場合には,人事管理の便宜上行っているものにすぎず,選考にはほとんど影響を与えていないと思われます(面接の段階で採否はほぼ決定しています)。とはいえ,あまりにも点数が悪いと具合が悪いでしょうから,適性試験の対策もある程度はしておく必要があるでしょう。

 

実施される適性試験の種類は企業によって異なりますが,インハウスの募集企業ではSPIとGABを採用しているところが多いです。GABは総合商社が主に採用しており,それ以外の企業はSPIという感じですが,詳しくは各就職情報サイトや適性試験関係の書籍で確認して下さい。

 

出題内容としては,大雑把に言えば法科大学院進学時に受験した適性試験をもう少し算数っぽくして,若干時間に余裕を持たせたような感じです(ただし,GABは時間がかなりタイトです)。

 

 新たな知識や技能の習得が必要な試験ではないので,2週間程度問題演習をして慣れれば十分に対応が可能であると思います(少なくとも相対的には浮き上がることができます)。

 

 オススメの書籍として,以下のものを挙げておきます。

 

司法試験が終わったのにまた試験か・・・と辟易してしまうところですが,こればっかりは仕方がないので,しっかり対策をして臨みましょう。

 

6 インハウスの待遇について

最後に,これまであえて触れてこなかった待遇に関して述べておこうと思います。

 

一般的には,新人インハウスの給与は,新人法律事務所勤務弁護士の給与よりも低いと考えられているように思います。ぼくもそのように考えていましたし,最初から待遇で選ぼうとは考えていなかったので,正直なところインハウスの給与にあまり期待はしていませんでした。

 

ところが,実際に就活をしてみると,思ったほどそうでもなく,法律事務所よりもむしろ一般企業の方が年俸ベースでは高いところもあることが分かりました。もちろん,それでも大規模企業法務系法律事務所には遠く及びませんが。笑

 

ぼくは,法律事務所から2つ,一般企業から2つの内定をいただいたのですが,その際提示された年俸額を序列化すると,一般企業A > 法律事務所B > 一般企業C >法律事務所D という感じでした。ただ,上記の比較はあくまでも年俸ベースであり,企業の場合はボーナスの割合が高いので,月々の手取りという意味では,法律事務所の方が高額といえるかもしれません。

 

具体的な金額を示していないのであまり参考にならなかったかもしれませんが,個人的な考えとしては,自分として最低限確保したい収入を決め,それを上回る収入を得られる法律事務所・企業であれば,あとはシンプルに仕事内容が面白いと思えるかどうかで決めればいいのではないかと思います。

 

法曹資格を取得するためには莫大な金銭的負担がかかり,少なくない借金をかかえている人も多いとは思いますが,たかだか1年目の年俸に目を奪われて就職先を選ぶのはちょっとつまらないような気がします。ぼくも偉そうなことをいえる立場ではありませんが,目先の利益ではなく,10年後何をしていたいか,どういう自分でありたいかを見据えて,就職先は考えたいものです。

 

以上,インハウスの就職について書いてみました。

 

司法試験受験生・司法修習生の就職活動②〜大規模企業法務系法律事務所 ※旧ブログ記事転載

1 「大規模企業法務系法律事務所」とは?

一般に「大手事務所」「大手渉外事務所」などと言われますが,本稿では,さしあたり下記の法律事務所を「大規模企業法務系法律事務所」と定義して話を進めていきたいと思います。
 
 【東京】(以下,「東京5大事務所」といいます)
 ・西村あさひ法律事務所(http://www.jurists.co.jp/ja/
 ・森・濱田松本法律事務所(http://www.mhmjapan.com/
 ・長島・大野・常松法律事務所(http://www.noandt.com/
 ・アンダーソン・毛利・友常法律事務所(http://www.amt-law.com/
 ・TMI総合法律事務所(http://www.tmi.gr.jp/
 
 【大阪】(以下,「大阪4大事務所」といいます)
 ・大江橋法律事務所(http://www.ohebashi.com/
 ・北浜法律事務所(http://www.kitahama.or.jp/
 ・御堂筋法律事務所(http://www.midosujilaw.gr.jp/
 
 なお,ここに挙げられていない事務所であっても,後述の採用スケジュールや留意点があてはまる場合があります(例えば,ベーカー&マッケンジー法律事務所,シティユーワ法律事務所,その他外資系法律事務所など)。
 

2 大まかな採用スケジュール

 《法科大学院最終学年次》 
 【4月〜6月】
 サマクラ応募・面接(東京)
 ※大阪でも一部サマクラ募集あり
 【7月〜8月】
 サマクラ(東京・大阪)

 

 《司法試験受験年》
 【4月〜5月】
 個別訪問応募(東京)
 サマクラ応募・面接(大阪)
 【6月】
 個別訪問(東京)→2回〜3回で内定
 サマクラ(大阪)→優秀者には内定
 【7月】
 東京5大事務所で内定がほぼ出そろう
 サマクラ(大阪)→優秀者には内定
 【9月】
 司法試験成績優秀者のみ個別訪問(東京)
 個別訪問開始(大阪)
 

3 サマークラークの重要性

(1)サマークラークとは?

大規模企業法務系法律事務所への就活を有利に進めるにあたって,最も重要なのが「サマークラーク」(サマクラ)への参加です。
 
サマークラークとは,主に企業法務系の大規模事務所において1週間程度,給与をもらいながら就業体験をすることをいいます。名目上は就業体験(研修)となっていますが,実質的には法律事務所の採用活動の一環として非常に重要視されています。特に東京5大事務所に内定をもらうためには,法科大学院在学中にサマクラに参加していることがほぼ必須であるとも言われています。
 
 このサマクラで優秀さをアピールすることができれば,司法試験終了直後に個別訪問に呼ばれ,その場で内定がもらえることもあるようです。ただ,サマクラに参加していなくても,自分から応募すれば個別訪問に呼んでもらえることはあるので(ぼくがそうでした),東京5大事務所を志望される方はあきらめずに個別訪問に応募してみましょう。
 
大阪4大事務所の中にも法科大学院在学生向けサマクラを実施しているところがありますが,内定への影響力は東京5大事務所ほどではないようです。大阪4大事務所の場合は,むしろ司法試験終了後のサマクラが重要です。こちらは今からでも間に合うので,積極的に応募してみましょう。
 
(サマクラ募集事務所の探し方については後述)
 

(2)サマクラの内容 

サマクラでは,訴状や準備書面等の起案,契約書のチェック,法令・判例のリサーチといった課題を与えられます。
サマクラの課題については,①参加者全員に同じ課題を与える場合と,②指導担当者の裁量でその都度適当な課題を与える場合があります。①の場合は起案や検討の結果を,②の場合は結果そのものよりも課題に取り組む姿勢やプロセスを重視しているということでしょうか。いずれにしても,一生懸命に取り組んで能力や意欲をアピールする必要があります。
 
また,短期間ながら実際の職場で一緒に過ごすということは,
 
  ・あいさつができるか
  ・時間を守れるか
  ・人の目を見て話せるか
  ・事務員にも礼儀正しい振る舞いができるか
  ・身だしなみは整っているか
  ・食事や飲み会のお礼を言えるか
  ・飲み会で自分から話題を切り出せるか
  ・自分から質問や報告・相談ができるか
 
といった,社会人としてのマナーも当然見られているということです。
 
 大規模法律事務所としては,ただ数年間起案やDD(デューディリジェンス)のマシーンとして働いてくれる人が欲しいのではなく(そういう事務所もあるかもしれませんが…),ゆくゆくは新しいクライアントを開拓して,パートナーとして事務所の経営を担ってくれる人材が欲しいわけです。そうであれば,法科大学院の成績や起案の能力はもちろん重要ですが,それだけではなく,人間的な魅力も備えていなければ内定を得ることは難しいでしょう。
 
 要は,「こいつと一緒に仕事をしたい」「こいつなら自分の大事なクライアントに合わせても大丈夫だ」「こいつは将来新しいクライアントを開拓していってくれるだろう」という評価をもらうことが重要だということですね。
 

(3)サマクラ募集事務所の探し方

大阪4大事務所については,現時点(平成26年5月19日)でいずれもサマクラの募集をしているようです。詳細は前述のHPを参照してください。
 
また,その他の事務所のサマクラについても「アットリーガル」(http://www.atlegal.jp/list.php)で随時情報が配信されていくかと思いますので,まだ会員登録されていない方はすぐに登録しましょう。ただ,アットリーガル等で情報配信せずに,ひっそりと事務所HPで募集を開始する事務所もありますので,注意が必要です。
 以下の事務所はアットリーガルで配信されなくてもサマクラを募集する可能性がありますので,興味のある方はこまめにHPをチェックしましょう(必ずしも網羅的ではありませんのでご了承ください)。
 
 ・三宅法律事務所(http://www.miyake.gr.jp/
 ・色川法律事務所(http://www.irokawa.gr.jp/law/
 ・関西法律特許事務所(http://www.kansai-lp.com/index2.html
 ・きっかわ法律事務所(http://www.kikkawalaw.com/
 ・共栄法律事務所(http://www.kyoei-law.com/
 ・協和綜合法律事務所(http://www.kyowa-sogo.gr.jp/
 ・第一法律事務所(大阪)(http://www.daiichi-law.jp/
 ・中央総合法律事務所(http://www.clo.jp/
 ・堂島法律事務所(http://www.dojima.gr.jp/
 ・はばたき綜合法律事務所(http://www.habataki-law.jp/
 
 サマクラの選考は,基本的に書類の到着順に随時行われるので,少しでも早く応募することが重要です。そして,早く応募するためには,言うまでもなく迅速な情報収集が欠かせません。興味のある事務所があれば,その事務所がサマクラ(あるいは個別訪問)を募集していないか,こまめにチェックする習慣をつけましょう。
 

4 成績・外国語能力の重要性

大規模企業法務系法律事務所の個別訪問やサマクラに応募するにあたって,必ず申告を求められるのが,法科大学院の成績や語学のスコアです。法科大学院の成績に関してはいいに越したことはありません(そして今更どうにもなりません)が,語学力に関しては,事務所ごとにトーンが異なるようです。
 
ある大阪4大事務所は,採用情報ページで外国語能力を選考上有利な事情として考慮すると名言していますし,その事務所のパートナーは「TOEICスコアが800点以上あれば『おっ』と思うし,少なくとも書類はちゃんと読もうと思う」とおっしゃっていました。他方で,ある東京5大事務所のパートナーは「今の英語力はそこまで重視していない。別に英語ができなくも他に光るものがあれば採用する。英語は実務に出ればできるようになるから」とおっしゃっていました。
 
どのくらい語学力が重視されているのか,実際のところはわかりません。ぼくの当時のTOEICスコアは785点という微妙なものでしたが,採用上有利にも不利にも働いた感触はありませんでした。
 
ただ,一つ言えるのは,今TOEIC等の語学スコアを持っていなくても,それだけで不採用になるわけではないということです。
 
というわけで,TOEICのスコアを持っていないからといって諦めることはありません!とにかく応募してみましょう!(ただ,面接ではTOEICスコアがないことをツッコまれる可能性がありますので,その際は現在勉強中などとうまいことを言って,少なくとも意欲は見せるようにしましょう。)
 
成績についても語学力についても,社会人経験者でない限り法科大学院修了生はみんな似たような経歴なので(失礼!),少なくとも書類選考段階では,数値で比較可能なところで優劣をつけざるをえない,というのが実情なのではないかと個人的には思っています。
 
なお,某法律事務所はイケメンを優遇しているというウワサがありますが,真偽の程は明らかではありません…(笑)。
 

5 面接(個別訪問)のポイント

 (1)個別訪問のスケジュール

東京5大事務所の個別訪問は,司法試験直後から一斉に開始されます。
 
法科大学院在学中のサマクラで高評価を得た人は,試験翌日に事務所側から呼び出され,そのまま内定をもらってしまうというから驚きですね。そういった例外的なケースを除くと,5月下旬から6月上旬までの間に1回目の個別訪問に呼ばれ,それを通過して2回目・3回目と回を重ねていくパターンが一般的です。多くの人は2回目か3回目の個別訪問で内定を得るようです。
 
1回目の個別訪問から2回目の個別訪問に呼ばれるまでの間隔は,ぼくの経験では早くて1週間以内,遅くて2週間以内です。連絡が電話で来る事務所もあれば,メールで来る事務所もあります。2週間を超えてしまうと,基本的には不採用になったと考えたほうがいいでしょう。ただ,まれに2週間以降でも連絡が来るケースもあるようです。
 
このように,東京5大事務所は応募から内定までが非常にスピーディーで,7月中にはほぼ内定が出揃ってしまうようです。
 

(2)面接の内容

東京5大事務所の個別訪問の面接官は,たいていは3人で,パートナー2名+アソシエイト1名の構成が多いように思います。

面接の内容自体は,特別なことを聞かれるわけではなく,お約束の「弁護士になりたいと思った理由」に始まり,「目指す弁護士像」「興味のある法律分野」「趣味・特技」「自分の長所・短所」「最近気になったニュース」といった一般的な質問が多かったように思います。事務所によっては,これらの質問を事前アンケートの形式にして回答を提出させ,それに基づいて面接をすることもありました。

 
ぼくの感触としては,しゃべっている内容そのものよりも,しゃべり方や態度(質問に端的に答えているか,自信をもって話しているか,相手の目を見て話しているか)を重視しているように感じました。

ただ,一度だけ,ぼくが知財に興味があると言ったら,職務発明を法人帰属とする改正案についてどう思うかという議論を持ちかけられたことがありました。その面接官は知財業界でも有名な先生だったので,ちょっと焦りましたが,そのトピックについては,数日前の日経新聞で記事が掲載されており,ぼくはそれを読んでいたので,ぎこちないながらも何とか事なきを得たのでした。(まあ,結果的には内定をもらえなかったのですが…(笑))

今思うと,本当に企業法務に興味があるのであれば,少なくとも日経新聞くらいは読んでいるだろうということで,ちょっと試されていたのだろうと思います。そういうわけで,企業法務系事務所を志望されるのであれば,日経新聞くらいは読む習慣を身につけていた方がいいかと思います。

 
 その他の留意点としては,(東京5大事務所の面接に限らずですが)やはり最後の質問コーナーで積極的に質問をした方がいいということです。質問事項としては,単に自分が知りたいというだけではなく,相手も気持ちよく語れることを聞くべきです。
例を挙げるとすれば,下記のような質問でしょうか。
 
 ・パートナーとして,どういうアソシエイトなら重要案件を任せたいと思うか?
 ・クライアントからの信頼を得るにはどのような努力が必要か?
 ・先生はどうやってその分野のクライアントを獲得してきたのか?
 ・案件に失敗した場合にクライアントとのコミュニケーションで気をつけていることはあるか?
 
そして,こういった質問をすると,キレ者の先生ほど結構な確率で「あなたはどう思う?」と返してきます(笑)。そうなったらある意味こっちのものです。自分の思いを遠慮なくぶつけてみましょう。質問コーナーを利用して,面接で語りきれなかったことを最後にカバーするわけです。
 ここで面接官の琴線に触れることを言えれば,良い印象を残すことができるでしょう。
 

6 「とりあえず応募してみる」のススメ

この記事をご覧になっている方の中には,大規模企業法務系法律事務所には興味がないという方もいらっしゃるでしょう。しかし,ぼくとしては,そういう方であっても,大規模企業法務系法律事務所の個別訪問やサマクラに「とりあえず」応募してみることをおすすめします。
 
応募した結果がどうなったとしても,あなたが失うものは何もないからです。
 
たとえある事務所の選考に通らなかったとしても,他の事務所の就活には何ら影響しません。むしろ,エントリーシートを書いた経験や面接を受けた経験はその後の就活に大いに役に立つはずです。エントリーシートも面接も,結局は場数が大事ですからね(笑)。
 
金銭的な面についても,大規模企業法務系法律事務所の個別訪問であればほとんどの事務所が交通費を支給してくれますし,サマクラであれば1週間で3万円〜5万円ほど稼ぐことができます。
 
そもそも,「興味がない」かどうかは,しっかり自分の目で見てみなければわからないはずです。勝手なイメージやうわさで法律事務所の良し悪しを判断するのは本当にもったいないことです。興味がないと思っていた事務所であっても,実際の案件に触れてみたり所属弁護士さんの話を聞いたりするうちに,考えが変わってくることもあるかもしれません。
ぼくも法科大学院時代には考えもしなかったところに就職することになったクチなので,あえて言いますが,人生はどうなるかわかりません。自分から積極的に動いていけば,きっと素敵な出会いが待っているはずです。
 
是非,大規模企業法務系法律事務所の個別訪問やサマクラに応募してみてください!
 

司法試験受験生・司法修習生の就職活動①〜総論 ※旧ブログ記事転載

1 本稿の趣旨

今年(平成26年)の司法試験を受験されたみなさん,本当にお疲れ様でした。

長い間懸命に受験勉強に励んできたこと,5日間にも及ぶハードな試験を乗り越えたことについて,まずはどうぞ自分を褒めてあげてください。よく頑張りました。

 
さて,大イベントが終わり,合否のことはひとまず忘れて,ゆっくり休みたい・遊びたいという気持ちもあることでしょう。ただ,その一方でみなさん気になっていることもあるのではないでしょうか。今この記事を読んでいることが,その証左でしょう(笑)。

 

 そう,就職活動です。

 

ここ数年,司法修習生・新人弁護士の就職難が叫ばれています。就職難の具体例(「即独」「軒弁」「未登録者」など)を長々と述べることはしませんが,現在修習生である自分の体感としても厳しい状況に間違いはないようです。

 

就職活動については,ぼくもそれなりに落とされましたし,焦りましたし,悩みました。しかし他方では,学ぶことも本当に多く,自分のやりたいことや目標を今一度見直すきっかけにもなりました。

そこで,今から就職活動をされるみなさんに少しでも情報を提供できればと思い,司法試験受験生(合格前)・司法修習生(合格後)の就職活動について記事を書いてみたいと思います。

 
ぼく自身の拙い経験が中心になるため,情報の正確性は保証できませんが,気楽にお読みいただければと思います。
 

2 私の就職活動の経緯・結果

就職活動についてはいろいろとありましたが,ぼくは法律事務所から2つ,一般企業から2つの内定をいただくことができました。自分で言うのも何ですが,大規模事務所から小規模事務所・個人事務所,一般企業まで比較的幅広く見て回ったのではないかと思います。

また,決して100%自分の思い通りにいったわけではありませんが,結果的には落ち着くべきところに落ち着いたのかなとも思っています(まだ働いていないのであれですが…(笑))。

 
その経緯はだいたいこんな感じでした。

 

 【5月】

 司法試験終了
 大阪大手事務所にサマクラ応募・面接
 東京5大事務所等の個別訪問に応募

 【6月】 

 東京5大事務所等の個別訪問(内定には至らず)

 【7月】

 大阪大手事務所にてサマクラ(内定には至らず)
 大阪企業法務系事務所にてサマクラ(内定には至らず)

 【8月】 

 大阪大手事務所にてサマクラ(内定には至らず)
 その他ちょくちょくと事務所説明会や面接など

 【9月】

 特に就活関係のイベントはなし
 合格発表後,複数の事務所に応募・面接

 【10月】

 東京三弁護士会合同就職説明会に参加し,インハウスにも興味を持つ
 修習地が地元に決定
 その他ちょくちょくと面接や説明会など

 【11月】 

 企業法務系法律事務所から内定
 合同説明会で興味を持った企業に応募・面接

 【12月】

 一般企業2社(総合商社・通信)から内定
 一般民事系法律事務所から内定

 【1月】

 最終的に行くところを決め,就職活動終了

 

3 本稿の構成について

以下の記事では,まず「総論」として,提出書類(エントリーシート等)の書き方や面接のポイント等,事務所の規模や専門分野にかかわらず共通する点について解説します。その後「各論」として,事務所の規模・専門分野や募集形態に応じた個別の留意点を述べていきたいと思います。