短答式試験の勉強方法 ※旧ブログ記事転載

先日、某所にて短答式試験についての合格者講義を担当させていただきました。

概ね好評だったようなので、その際に配布したレジュメを下記URLにて掲載させていただきます(個人情報に関する部分は伏せております)。講義自体を聞かなくても、レジュメのみで内容は理解できるように作ってありますので、よろしければご利用ください。

http://ja.scribd.com/doc/178032842/Guidance-Resume

受験生の皆様のお役に立てましたら幸いです。

民法(民事系)の答案の書き方 ※旧ブログ記事転載

またブログの更新が滞っておりました。

軽く近況報告をさせていただくと、先日修習地が決まり、司法研修所から「白い悪魔」こと白表紙が送られてきました。事前課題や白表紙の読み込み、各種ガイダンス等で段々と忙しくなってきていますが、いよいよ修習という次のステージへ進めると思うとワクワクします。

 

さて、 最近はなんだかんだで司法試験の受験指導をさせていただく機会が多くあります。後輩の答案添削から、再受験者のためのゼミ指導、某予備校での択一試験対策講義などなど…。ぼく自身、受験指導が得意という自覚はないのですが、何にせよ、目標を持って頑張っている人の応援をさせていただけることは、大変光栄であり、ぼくにとってもいい刺激になっています。

 

先日、再受験者向けに民法の論文答案の書き方を指導させていただいたのですが、その際に配布したペーパーが割と好評だったので、このブログにも掲載させていただこうと思います。民法一般の論文答案の書き方について書いたつもりではありますが、上記ゼミで取り扱った問題が平成24年民事系第1問であったため、多少その問題意識に引きずられているところがあります。

では、以下引用です。

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1 総論

  • 試験が始まったらまず配点比率を確認し、時間配分・紙幅配分の目安にする。

  • 答案のナンバリングは、第1→1→(1)→ア→(ア)の順とし、レベル毎に字下げを行う。第1や1といった大きい項目にはできるだけ見出しを付けるようにする。
  • 条文の指摘を怠らない。条文の指摘そのものに点が振られていることを忘れずに。条文を摘示する際は、項数、号/柱書、前段/後段、本文/但書まで特定する。
  •  要件の解釈論や当てはめを行う際には、条文の文言を「 」で引用し、できるだけ条文の文言に引きつけるようにする。
  •  答案構成は問題文の問いに対応させる。特に民法の場合は問いが親切で答案構成を誘導してくれているので、素直にそれに乗っかる(見出しも問いに対応させる)。
  •  答案の結びは、必ず問いに対応させる。
    ex 「主張は認められるか」→「主張は認められる/認められない」
     「請求することができるか」→「請求できる/できない」
  • 典型契約の成立を認定する際は、冒頭規定に定められた当該契約の本質的要素を摘示する。「契約の締結」=「契約の成立」ではないということに留意。事実摘示の方法は、『民事判決起案の手引』(法曹界)巻末の事実摘示記載例集を参考にするとよい。

    ex 売買契約の場合
    ☓「XとYは売買契約を締結している(555条)。」
    ○「XはYに対し、平成○月○年○日、本件土地を代金1000万円で売っているので、XY間で売買契約が成立している(555条)。

    ex 寄託契約の場合
     ☓「XとYは寄託契約を締結している(657条)。」
    ○「XとYは、平成○月○年○日、本件建物においてYがXのために△△を保管することを合意し、同日、XはYに対し△△を引き渡している。したがって、XY間で寄託契約が成立している(657条)。」 

2 各論

(1)設問1について(要件事実論)

  •  設問1で問われる「法律上の意義」とは、要するに当該事実の主張立証上の位置づけ(意味付け)のことである。
  • 司法試験で問われる事実の主張立証上の位置づけはだいたい以下のパターンに分類される。
    ①請求原因事実(主要事実)に直接該当する事実
    ②請求原因事実に直接には該当しないがその存在を推認させる事実(積極の間接事実)
    ③請求原因事実に直接には該当しないがその不存在を推認させる事実(消極の間接事実)
    ④抗弁事実(主要事実)に直接該当する事実
    ⑤抗弁事実に直接には該当しないが、その存在を推認させる事実(積極の間接事実)
    ⑥抗弁事実に直接には該当しないが、その不存在を推認させる事実(消極の間接事実)
    ⑦請求原因事実や抗弁事実とは無関係(法律上の意義なし)
  • このような主張立証上の位置づけを論じるには、前提として何が請求原因事実で何が抗弁事実であるのかを明らかにする必要があり、そのためには実体法上の要件の理解と解釈が不可欠となる。
    ※出題趣旨からの引用
    「設問1では、要件事実とその主張立証責任について平板に述べただけでは足りず、要件事実理解の前提となる民法の実体法理論について丁寧な分析と検討をし、これを踏まえて要件・効果面へと展開することが求められる。」
  • 以上により、設問1の書き方としては、次のようになるはずである。
    (ⅰ)当事者の言い分に基づく法律構成(条文)の摘示
    (ⅱ)実体法上の要件の摘示(条文の文言を引用して列挙する)
    (ⅲ)列挙した要件につき何が請求原因となり何が抗弁に回るかの検討(実体法の解釈論)
    (ⅳ)下線部の事実がどの請求原因/抗弁との関係でどのような意味をもつのかの検討

(2)設問2以降について(請求権パターン)

  • 請求権パターンとは、一定の事実関係や当事者の言い分を前提に、「何を請求することができるか」「どのような法的手段が考えられるか」などと問う問題のことをいう。
  •  何が請求できるかは、すなわち条文に規定された法律効果による。したがって、請求権パターンは、法律効果(請求の趣旨)から遡って複数ありうる法律構成(訴訟物)を考えさせ、その要件の充足性を検討させる問題といえる。
  •  よって、請求権パターンの検討順序(考え方)としては、次のようになる。
    ①誰が誰に何を要求しているのか(たいていは「金を払え」か「物を渡せ」のどちらか)
    ②請求の根拠となる法律構成(条文)は何が考えられるか(訴訟物の設定)
    ③当該法律構成によった場合、どの要件を充足しなければならないか(要件の列挙)
    ④本問では特にどの要件が問題となり、どのような解釈がありうるか(要件の解釈)
    ⑤自説の解釈によれば、本問で要件は充足されているか(あてはめ)
    ⑥要件を充足するとした場合、具体的に何が請求できるか(請求の内容及び結論)
    ※もっとも、新司法試験においては、設問の側で①②まで特定してくれている場合も多い。
  • 請求権パターンの基本的な論述スタイルは、(ⅰ)冒頭で要件列挙→(ⅱ)要件ごとに項目分けをして一つずつあてはめる、となる。もっとも、特に問題となる要件については問題提起→規範定立(判例通説に従う)→あてはめの順で丁寧に検討する。
  • 上記の論述スタイルをとるメリットは次の2点にある。
    ①冒頭で要件を全部挙げているので検討漏れを防げる(いわゆる「論点飛びつき型答案」になることを防げる)。
    ②新司法試験では何を書けばいいのか一見して分からない問題が多いが、要件を一つ一つ検討するというスタイルをとっていれば問題点に気がつきやすく、仮に気がつかなくても無意識に言及できているということがあり、相対的には浮き上がることができる。
  • 債務不履行や過失(帰責事由)の有無を論じる際には、当事者がいかなる義務を負っているのか(契約内容の解釈から導く)、いかなる行為によってそれに違反したといえるのかを具体的に特定する。
  • 損害賠償請求の場合には、「損害」の中身(損害項目、損害額、原因行為との相当因果関係の有無など)を具体的に書く(会社法でも注意)。 

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以上です。少しでも受験生の皆様のお役に立てましたなら幸いです。 

【平成25年司法試験再現答案】知的財産法 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

【第1問】

第1 設問1について

1.請求原因

(1)まず、Xは発明αにかかる本件特許権の設定登録を受けているから「特許権者」(特許法(以下、省略する。)100条1項)。

(2)特許権を「侵害する者」(100条1項)とは、「業として」「特許発明」の「実施」をする者をいう(68条本文参照)。この点、Yが使用している方法1及び方法2は、物質b1を用いるか物質b2を用いるかという点で違いがあるものの、両物質の上位概念である物質Bを用いた発明αの方法に包摂される関係にあるから、いずれも「物を生産する方法の発明」(2条3項3号)である発明αの「技術的範囲」(70条1項)に属している。

 したがって、Yが方法1及び方法2を「使用」して化合物Cの製造を行うことは、「業として」「特許発明」を「実施」(2条3項3号)したものといえるから、Yは「侵害する者」にあたる。

(3)以上により、Xの差止請求は請求原因を満たしている(100条1項)。

2.方法1に関するYの抗弁

(1)無効の抗弁(104条の3第1項)

 Xは、乙から方法1に関する特許を受ける権利の譲渡を受け、同じく方法1に関する特許を受ける権利を承継した(35条2項反対解釈)Yよりも先に出願しているから、34条1項によりXが特許を受ける権利を確定的に取得し、YはXに対抗することができないとも思える。

 しかし、方法1に関する発明は甲と乙の共同発明であるから、甲の「同意」がない以上、Xに対する特許を受ける権利の譲渡は無効である(33条3項)。したがって、Xは最初から無権利であって34条1項の「第三者」にはあたらないと解されるから、Yは出願なくして特許を受ける権利の承継をXに対抗することができる。

 よって、Xは方法1に関する特許を受ける権利を有していないから、本件特許には123条1項6号の無効原因があり、Yは無効の抗弁を主張することができる(104条の3第1項)

(2)先使用による通常実施権の抗弁(79条)

 仮に、無効の抗弁が成立しないとしても、Yは先使用による通常実施権(79条)を取得したとしてXに対抗することができる。

 すなわち、方法1は、Yの従業員である甲と乙が職務発明(35条1項)として共同で発明したものであるところ、Yは甲・乙から知得して、Xによる発明αの出願前に方法1を「使用」することにより「実施」(2条3項3号)して化合物Cを製造するという「事業」を行っていたといえるから、方法1につき通常実施権を取得している(79条)。

 したがって、Yによる方法1の使用は、本件特許権の侵害にあたらない(78条2項)。

3.方法2に関するYの抗弁

(1)方法2は、乙がYを退職してXの従業員となった後になされたものであるから、方法2について独自の先使用権(79条)は成立しない。

(2)もっとも、方法1と方法2は、物質b1を用いるか物質b2を用いるかという点に違いがあるにすぎない。そこで、方法2の使用は、方法1について成立した先使用権の「実施…している発明…の範囲内」(79条)にあるものとして、侵害にならないと主張することはできないか。

 この点、技術革新が著しい現代において、先使用権の範囲を出願時の実施形式に限定されるとすれば、先使用権の制度自体を無意味にしてしまうおそれがある。そこで、「実施…している発明…の範囲」とは、特許出願の際に先使用権者が現に実施していた形式に限定されるものではなく、その実施形式に具現化された技術的思想と同一性を失わない範囲内において、変更した実施形式にも及ぶものと解すべきである。

(3)これを本件についてみると、方法2は物質b2を用いることにより、方法1よりも顕著に高い収率で化合物Cを生産するものであるが、物質b1・b2共に物質Bという上位概念に包摂されるものであるから、両方法には類似性があったといえる。また、方法2の使用は、方法1に用いていた生産ラインを一部変更するだけで可能になるものであるから、両方法を使用するにあたっての設備上の障壁も低かったといえる。

 したがって、方法1に具現化された技術的思想の範囲には、方法2も含まれていたといえるから、方法2は「実施…している発明…の範囲」にあるものとして、方法1について成立した先使用権が及ぶ(79条)。

(4)よって、Yによる方法2の使用は、本件特許権の侵害にあたらない(78条2項)。

 

第2 設問2について

 Yは、方法2の使用が、方法1について成立した先使用権の範囲内にあるという。

 しかし、Yの主張する先使用権の拡張の根拠は、先使用権の範囲が特許出願時の実施形式に限られ、出願後の技術進歩によって可能になった実施形式についてはおよそ先使用権が及ばないとすれば、先使用権者の保護に欠けるという点にあるところ、そもそも物質b1の代わりに物質b2を用いるということは、本件特許の出願前に可能になっていたものであり、出願後の技術進歩によって可能になったものではない。

 したがって、上記の根拠があてはまらないから、Yの主張はその前提を欠いている。よって、方法1につき成立した先使用権は、方法2の使用については及ばない。

 

第3 設問3について

1.Xに対する本件特許権の移転請求(74条1項)の可否

(1)設問1で述べたように、本件特許権には123条1項6号の無効原因がある(74条1項)。

(2)また、設問1で述べたとおり、方法1に関する特許を受ける権利は、Xが「第三者」(34条1項)にあたらない結果、Yが確定的に取得する。他方、方法2に関する特許を受ける権利は、乙から譲渡を受けたXが取得している。

 本件特許権にかかる発明αが、物質b1・b2の上位概念である物質Bを用いることにより、方法1と方法2を包含する関係にあることに鑑みれば、発明αに関する特許を受ける権利は、XとYの共有に属しているものというべきである。

 したがって、方法1に関する限りで、Yは発明αについての「特許を受ける権利を有する者」(74条1項)に該当する。

(3)以上により、Yは自己の持分である方法1に関する限りで、Xに対し、本件特許権の移転請求をすることができる(74条1項、規則40条の2)。なお、Xは、当該持分の移転につき自己の同意がないことを理由に、上記移転請求を拒むことができない(74条3項)。

2.Xに対する方法1使用の差止請求の可否

 方法1に関する本件特許権の移転請求が認められれば、方法1の使用に関する限りでXは「侵害する者」にあたるから、YはXに対し、方法1の差止めを請求することができる(100条1項)。

以上

 

【第2問】

第1 設問1について

1.Aの主張

(1)本件小説は、古代中国の武将αの数奇な生涯を描いた小説であって、Aの「思想又は感情を創作的に表現したもの」であって、「文芸…の範囲」に属するものであるから、「小説の著作物」として「著作物」にあたる(著作権法(以下、省略する。)2条1項1号、10条1項1号)。そして、執筆者であるAが「著作者」として著作権を享有する(2条1項2号、17条1項)。

(2)本件漫画は、Bが、本件小説に登場するαその他の登場人物について、小説で言語として描かれた特徴に独自の視点を加味して描くことにより、新たな創作性を付与して「翻案」したものといえるから、本件小説の「二次的著作物」(2条1項11号)といえる。

(3)本件アニメは、本件漫画の登場人物の作画を忠実にアニメ化することによって「有形的に再製」したものといえるから、本件アニメのDVDの製造は、本件漫画の「複製」(21条、2条1項15号)にあたる。そして、本件アニメのDVDの販売は、本件漫画の「複製物」を「公衆」に「譲渡」したものといえる(26条の2第1項)。

(4)したがって、Aは、二次的著作物である本件漫画の「原著作物の著作者」として、本件漫画の著作者であるBと「同一の種類の権利」を有するから(28条)、Cに対し、複製権侵害(21条)及び譲渡権侵害(26条の2第1項)を理由に、本件アニメDVDの製造・販売の差止めを請求することができる(112条1項)。

2.Cの反論

(1)確かに、本件アニメDVDの製造・販売は、本件漫画の「複製」及び「公衆」に対する「譲渡」に該当する。

(2)しかし、本件アニメは、本件漫画の登場人物の作画のみを利用したものであり、物語の展開は本件小説には全く描かれていない独自の内容であった。すなわち、本件アニメにおいて有形的に再製されているのは、本件漫画によって初めて付加された創作的部分のみであって、「小説の著作物」である本件小説の創作性は、本件アニメには一切現れていない。したがって、このような、二次的著作物によって新たに付加された部分のみの利用については、28条を介した原著作物の著作者の権利は及ばないと解すべきである。

(3)よって、Aは、28条を介した複製権・譲渡権を、本件アニメDVDの製造・販売について行使することはできない。

3.双方の主張の妥当性

(1)確かに、28条の文言上は原著作物の著作者が行使できる権利の範囲に限定はなく、裁判例にも「新たに付加された部分」のみの利用であっても原著作物の著作者の28条を介した権利が及ぶ旨判示したとみられるものがある。

(2)しかし、かかる解釈は創作性の保護という著作権法の大原則から乖離するものであって、他人による創作性の付加という偶然の事情で原著作物の著作者の権利が際限なく拡大することになるので妥当でない。原著作物の著作者の創作性が及ばない部分についてはもはや保護すべき実質を欠くというべきである。したがって、Cの主張する通り、新たに付加された部分のみの利用については原著作物の著作権者の権利は及ばない。

(3)よって、Aは、28条を介した複製権・譲渡権を、本件アニメDVDの製造・販売について行使することはできず、Aの主張する差止請求は認められない。

 

第2 設問2について

1.Bの主張

(1)前述のように、本件漫画は、本件小説に新たな創作性を付加して「翻案」したものであるから、本件小説の「二次的著作物」(2条1項11号)として、「著作物」(2条1項1号)にあたる。また、本件漫画中の登場人物であるαのデザインは、Bの「思想又は感情を創作的に表現」したものであって、「美術…の範囲」に属するものであるから、本件漫画とは独立して「著作物」にあたる。

 本件漫画及びαのデザインは、いずれも「美術の著作物」(10条1項4号)であり、Bが「著作者」として、著作権を享有する(2条1項2号、17条1項)。

(2)αが描かれた原画を掲載した本件パンフレットはαの「複製物」、本件漫画の1コマが印刷された本件チケットは本件漫画の「複製物」にあたり、これらの販売は「公衆」への「譲渡」(26条の2第1項)に該当する。

(3)以上により、BはDに対し、本件漫画及びαの譲渡権侵害(26条の2第1項)を理由に、本件パンフレット及び本件チケットの販売の差止めを請求することができる(112条1項)。

2.Dの反論

(1)本件パンフレットの販売について

 本件パンフレットの作成は、47条の権利制限規定により適法であるから、その販売も47条の10本文によって適法であり、譲渡権侵害にはあたらない。

(2)本件チケットの販売について

 本件チケットの作成は、32条の適法引用として適法であるから、その販売も47条の10本文によって適法であり、譲渡権侵害にはあたらない。

3.双方の主張の妥当性

(1)本件パンフレットの販売について

 本件イベントは、所有者の承諾を得て本件漫画の原画を展示するというものであるが、これは45条1項により、Bの展示権(25条)を侵害することなく行うことができるものである。そして、本件パンフレットは、原画の解説を付し本件イベント会場において観覧者に販売されるものであるから、「観覧者のため」の「小冊子」にあたり、47条の要件を充足するようにも思える。

 しかし、47条の権利制限規定の根拠は、観覧者への解説を目的とした小冊子に掲載するためであれば著作権者への経済的打撃は軽微なものにとどまるという点にあるところ、小冊子自体を「販売」する場合には、それによって当該著作物への需要に代替し、収益可能性を奪う点で、著作権者への経済的打撃はもはや軽微であるとはいえない。

 したがって、販売に供する本件パンフレットは、47条の「小冊子」には該当しないというべきである。よって、47条の10本文の適用はなく、Bの主張通り譲渡権侵害が成立する。

(2)本件チケットの販売について

 32条の適法引用に該当するためには、そもそも「引用」に該当しなければならない。「引用」に該当するか否かは、①主従関係性と②明瞭区別性により判断される。

 この点、①主従関係性は、単に量的な問題だけでなく、被引用部分が引用部分を補足説明・批判・例証・参考資料の提供をするなど、その内容においても従たる関係にあることを要する。本件チケットは、本件漫画の印刷部分を除けば、本件イベントの名称・日時場所が記載されているにすぎず、その内容面において本件漫画に従たる関係にあるものではないから、主従関係性が認められない。

 したがって、32条・47条の10本文の適用はなく、Bの主張通り譲渡権侵害が成立する。

 

第3 設問3について

1.E及びBの主張

(1)本件フィギュアは、「美術の著作物」として「著作物」に該当し(2条1項1号、10条1項4号)、Eが「著作者」として著作権を享有する(2条1項2号、17条1項)。

(2)本件フィギュアを小型化したプラスチック製人形の製造は、本件フィギュア及びαの「複製」にあたり、その提供は「公衆」への「譲渡」にあたる。

(3)したがって、E及びBは、Fに対し、複製権侵害(21条)及び譲渡権侵害(26条の2第1項)を理由に、上記製造及び提供の差止めを請求する事ができる(112条1項)。

2.Fの反論

 (途中答案)

 

【感想】
特許法(第1問)は、概ね論点自体を拾うことはできたように思うが、設問3で79条の2に言及できなかったのは痛いミスである。

著作権法(第2問)は例年と異なり、主張→反論→検討という憲法のような問題形式になっていたため、少し戸惑った。問題自体は難しくなく処理勝負になると思ったが、時間配分・紙幅配分を誤り、途中答案という結果になってしまった。

【平成25年司法試験再現答案】刑事系第2問 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

〔設問1〕

第1 逮捕①及び逮捕②の適法性について

1.準現行犯逮捕の要件

(1)本件の逮捕①及び逮捕②は、いずれも令状を得ないでなされたものであるが、刑事訴訟法(以下、省略する。)212条2項の要件を満たせば、甲・乙が「現行犯人」とみなされる結果、213条により、適法な逮捕となる。

(2)212条2項の要件は、①「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる」こと、すなわち犯罪と犯人の明白性、②212条2項各号のいずれかに該当すること、③犯行と逮捕行為との相当程度に時間的場所的接着性、④「逮捕の必要」(199条2項但書参照)があること、の4つである。

2.逮捕①の適法性について

(1)①犯罪と犯人の明白性は、逮捕者が犯行を現認した場合か、被逮捕者が当該犯行の犯人であることが逮捕者において外部的事情から直接明白に覚知できる場合にのみ認められ、単に目撃証言があるというだけでは認められない。

 これを本件についてみると、まず、甲は、Wの目撃証言においてVを包丁で刺したとされる「男1」と「身長約190センチメートル、痩せ型、20歳くらい、上下とも青色の着衣、長髪」という点において、風貌が完全に一致している。また、包丁で胸を突き刺すという犯行態様からして、犯人に着衣には返り血が付着している可能性が極めて高いと思われるところ、甲の着衣及び靴には一見して血と分かる赤い液体が付着していた。さらに、甲と一緒にいた乙が、甲がVを刺したと供述しているところ、その犯行態様や時間・場所はWの証言と完全に一致しており、信用性は極めて高い。

 以上のことからすれば、甲が本件犯行の犯人であることが、Pにおいて直接明白に覚知できるに至っていたということができるから、犯行と犯人の明白性が認められる(①)。

(2)前述のように、甲の着衣及び靴には血液が付着していたから、212条2項3号の「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき」に該当する。この点、血液の付着だけでは「顕著な」証跡とまではいえないとも思われるが、甲の風貌が、Wの証言における「男1」と完全に一致していること、乙が本件犯行は甲が行った旨供述しており、その内容がWの証言と完全に一致していることからすれば、血液はVのものであり、本件犯行によって付着したことが明らかになったといえるから、「顕著な」証跡ということができる(②)。

(3)甲は、本件犯行から約30分後、本件犯行現場であるH公園から北西方向に800メートル離れた路上で逮捕されている。甲がPらから呼び止められた時点では本件犯行から20分しか経過していなかったこと、北西方向に逃げたとのWの証言通り、H公園の北西に位置する地点で発見されていることからすれば、犯行と逮捕との相当程度の時間的場所的接着性を認めてよいと考える(③)。

(4)本件ににおいて、特に逮捕の必要性を阻却する事情はみられない。むしろ、甲がPらの質問に答えず、血液の付着につき合理的な説明をしていないことからすれば、逮捕の必要性は高かったといえる(④)。

(5)以上により、逮捕①は212条2項の要件を満たしているから、213条により適法である。

3.逮捕②の適法性について

(1)まず、乙は、Wの目撃証言における「男1」に「やれ。」命令した「男2」と「身長約170センチメートル、小太り、30歳くらい、上が白色の着衣、下が黒色の着衣、短髪」という点で、その風貌が完全に一致している。また、乙は自ら甲に対してVの殺害を依頼し「やれ。」と命令したこと、それに従って甲がVを包丁で2回突き刺したことを供述しており、その内容はWの証言と完全に一致している。そして、一緒にいた甲の着衣及び靴には、明らかに上記犯行の際に浴びたと認められる血液が付着していた。

 以上のことからすれば、甲との関係のみならず、乙との関係でも、乙が本件犯行の共犯であることがPにおいて直接明白に覚知できすることができる情況にあったといえるから、犯罪と犯人の明白性が認められる(①)。

(2)乙には、甲とは異なり、着衣等に血液が付着しているといった事情はない。

 もっとも、本件逮捕②における乙の被疑事実は、「甲と共謀の上、Vを殺害した」との殺人罪の共謀共同正犯であると思われるから、実行犯ではない乙に直接「犯罪の顕著な証跡」(212条2項3号)が見られないのはむしろ当然である。そこで、このような共犯の場合には、被逮捕者自信に「犯罪の顕著な証跡」が見られなくても、共犯者についてそれが認められれば212条2項3号に該当すると解すべきである。

 したがって、逮捕①で述べたとおり、甲の着衣及び靴に血液が付着していることは甲との関係で「顕著な証跡」といえるから、共謀共同正犯者である乙についても「顕著な証跡」に該当する(②)。

(3)逮捕①で述べたのと同様に、犯行と逮捕との相当程度の時間的場所的接着性は認められる(③)。

(4)本件ににおいて、特に逮捕の必要性を阻却する事情はみられないから、逮捕の必要性は認められる(④)。

(5)以上により、逮捕②も212条2項の要件を満たしているから、213条により適法となる。

 

第2 差押えの適法性について

1.逮捕に伴う捜索・差押えの要件

(1)本件差押えは、逮捕①に伴う差押え(220条1項2号、同3項)として行われたものと思われるところ、逮捕①は適法になされているから「現行犯人を逮捕する場合」(220条1項柱書)の要件は充足している。では、「逮捕の現場」(22条1項2号)における差押えといえるか。

(2)220条1項2号が逮捕に伴う無令状の捜索・差押えを認めているのは、逮捕の現場には被疑事実に関する証拠物が存在する蓋然性が高いことを前提に、その隠滅を防止し保全する緊急の必要性があるからである(緊急処分説)。

(3)このような緊急処分説からすれば、捜索対象が「場所」ではなく被疑者の「身体」である場合、被疑者がどこにいようとも上記の趣旨はあてはまり、「逮捕の現場」に当たるとも思える。

 しかし、このような解釈は「逮捕の現場」という文言上の限定を無意味にするから妥当でない。そこで、逮捕した現場で捜索・差押えをすることが困難な事情のある場合には、処分の円滑な実施のため、最寄りの適切な場所に移動して行う場合に限り、「逮捕の現場」における捜索・差押えとして許容されると解すべきである。

(4)これを本件についてみると、逮捕①を行った路上では、甲が暴れ始め交通の妨げになるなど、その場において甲の身体着衣につき捜索を行うことが困難な事情があった。そこで、甲を最寄りの300メートル離れたI交番に連行して捜索を行うことも適法と解されるところ、本件差押えの対象物である携帯電話は、その移動中に甲が落としたものであった。

 すなわち、I交番に連行して行う捜索は「逮捕の現場」におけるものとして適法であり、その捜索がなされていれば上記携帯電話は適法に発見され、差押えられていたはずのものである。

 したがって、それよりも前の時点においてたまたま携帯電話が発見され、差押えられたとしても、「逮捕の現場」における差押えと同視することができるというべきである。

(5)以上により、本件差押えは「逮捕の現場」における差押えといえる。

3.携帯電話の記録内容を確認することなく差押えたことの適法性

(1)逮捕に伴う差押えとして差押えることができるのは、当該逮捕の基礎となった被疑事実に関連する証拠物に限られる。Pは携帯電話の記録内容を閲覧するなどして本件犯行との関連性を確認することなく本件差押えに及んでいるが、かかる差押えは適法か。

(2)この点、携帯電話等の電子機器に記録された電子データは、外部からの可視性・可読性を欠いいており、記録内容の確認には一定の装置を機器・操作が必要となる反面、その改ざんや消去は極めて容易である。そこで、このような電子データが記録された機器については、①被疑事実に関連する情報が記録されていると認められる合理的理由があり、②現場で被疑事実との関連性を確認することが困難であり、③罪証隠滅のおそれが認められる場合には、内容を確認することなくこれを差押えることも適法と解すべきである。

(3)これを本件についてみると、乙は、今朝甲に対して、V殺害に対する報酬金額を打診するメールを携帯電話で送った旨供述し、その送信メールを示している。かかるメールは、本件犯行における甲と乙の共謀を基礎づける重要な証拠であるところ、通常、携帯電話からのメール送信であれば、同じく携帯電話に向けて送ったものと考えられるから、甲が所持していた携帯電話に上記メールを受信・開封したことが記録されている蓋然性が高かったといえる(①)。

 また、Pは、捜索を拒んで暴れたりしていた甲がたまたま落とした携帯電話を、とっさに拾って差し押さえたものであり、同時に甲が携帯電話を拾おうと手を伸ばしていたことに鑑みると、甲によって上記メールが削除されるおそれがあり(③)、携帯電話の内容を確認している時間的余裕はなかったものといえる(②)。

(4)したがって、Pが携帯電話の内容を確認することなくこれを差し押さえたことは適法である。

4.以上により、本件差押えは適法である。

 

〔設問2〕 

第1 実況見分調書全体の証拠能力

 本件実況見分調書は、「公判期日における供述に代」わる書面であるから、320条1項が適用され、原則として証拠能力が適用される(伝聞法則)。

 もっとも、実況見分は任意捜査としておこなわれる「検証」といえるから、実況見分調書には321条3項の準用が認められる。したがって、作成者であるPが尋問を受け、作成の真正及び内容の真正について供述すれば、証拠能力が認められる(321条3項)。

 

第2 実況見分調書中別紙1部分の証拠能力

1 問題の所在

(1)実況見分調書全体の証拠能力が認められたとしても、それに添付された別紙1および別紙2につき証拠能力が認められるかは別論である。すなわち、別紙1及び別紙2部分が伝聞証拠として別途伝聞法則(320条1項)の適用を受けるかが問題となる。

(2)320条1項が規定する伝聞法則の趣旨は、反対尋問・供述態度の観察・偽証罪の告知等によって知覚・表現・記憶・叙述の各過程に誤りが介入していないかをチェックすることができない公判廷外の供述証拠の証拠能力を原則として否定する点にある。したがって、要証事実との関係で供述内容の真実性を立証するために用いられるものだけが伝聞法則の適用を受けることになる。

2 説明部分の証拠能力

(1)別紙1は、司法警察員2名が犯行状況を再現した再現写真部分とWがそれを説明した部分から成っている。

(2)説明部分における「犯人の一人が、被害者に対し、右手に持った包丁を胸に突き刺した」とのWの供述について、検察官の立証趣旨が「犯行状況」とされていること、甲が本件殺人について一貫して黙秘していることに鑑みると、その要証事実は「甲が、Vの胸に包丁を突き刺したこと」であると解される。この要証事実は、上記Wの供述の内容通りの事実が本当にあったことが立証されて初めて推認が可能となる。したがって、説明部分は伝聞法則の適用を受ける。

(3)説明部分は、Wの供述録取書の性質を有するものとして321条1項3号の伝聞例外が適用されうるが、そもそもWの「署名若しくは押印」(321条1項柱書)がない以上、原則通り証拠能力は認められない。

3 再現写真部分の証拠力

(1)写真部分は、写真ではあるものの、Wの説明に基づく再現であるという点で、Wの知覚・記憶等に誤りがないかをチェックする必要があるので、「行動による供述」として供述証拠にあたる。そして、写真部分についても、要証事実は説明部分と同様、甲が本件殺人を行ったことであるから、その内容の真実性が問題となるものとして伝聞法則の適用を受ける。 

(2)写真部分もWの供述録取書としての性質を有しているが、録取の過程については機械的正確性が担保されているので、「署名若しくは押印」は不要である。

 もっとも、Wは存命であり、その他の供述不能事由も認められないので、321条1項3号の要件を満たさず、証拠能力は認められない。

 

第3 実況見分調書中別紙2部分の証拠能力

1 説明部分の証拠能力

(1)別紙2も再現写真部分とWの説明部分から成っている。

(2)説明部分について、その要証事実は、立証趣旨の通り「Wが犯行を目撃することが可能であったこと」と考えられる。この要証事実は、Wが「私が…立っていた場所はここです。」と指示し、その位置において「犯行状況…は、私が…立っていた位置から十分に見ることができます。」と説明したこと自体から推認が可能である。すなわち、上記Wの説明内容の真実性を問題にすることなく、説明したことそれ自体から推認が可能である。

(3)したがって、説明部分には独立して伝聞法則の適用はなく、実況見分調書を一体のものとして、調書全体が321条3項の要件を満たす限り、証拠能力が認められる。

2 再現写真部分の証拠能力

(1)再現写真部分も前述のとおり供述証拠にあたるが、この証拠の要証事実である「Wが犯行を目撃することが可能であったこと」は、説明部分と同様、その内容の真実性を問題とすることなく、写真に写された状況そのものから推認が可能である。

(2)したがって、伝聞法則の適用はなく、実況見分調書と一体のものとして、調書全体が321条3項の要件を満たす限り、証拠能力が認められる。

以上

【感想】 

設問1の逮捕①②の適法性については非常に難しかったが、乙が甲の犯行を供述している点と、乙と甲が共犯関係にある点をどのように考慮するかがポイントになると思った。差押えの適法性についても考えたことのない問題であったが、220条1項2号の趣旨から丁寧に論じるよう心がけた。加えて、携帯電話の中身を確認することなく差押えた点も問題になると思った。

設問2については、正直何を聞きたいのかがわからなかった。最決平成17.9.27に準拠して論じれば足りるように感じたが、本当にそれだけでよいのか不安になった。

【平成25年司法試験再現答案】刑事系第1問 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

第1 乙の罪責

1.Aをトランクに閉じ込め、死亡させた行為

(1)乙は、トランク内にいたAの口をガムテープでふさいだ上、再度トランク内に閉じ込めているから、Aの可能的自由を奪ったものとして、監禁罪(刑法(以下、省略する。)220条後段)が成立する。

(2)では、その後Aは死亡しているが、監禁致死罪(221条)が成立するか。

 結果的加重犯の成立には、基本犯との加重結果との間に因果関係が認められることが必要であるが、加重結果につき予見可能性ないし過失があることまでは必要でない。刑法上の因果関係は、規範的考慮に基づく結果の行為への帰属可能性の問題であるから、実行行為の危険が結果へと現実化したものと評価できる場合に認められる。

 これを本件についてみると、手足を縛られた状態で身動きがとれないAの口をガムテープで塞ぎ、振動の伝わりやすいトランク内に閉じ込めて山中の悪路を走行すれば、車酔いにより嘔吐し、その吐しゃ物によって気管が塞がれて窒息死に至ることは、通常ありうる事態といえる。したがって、Aの死亡結果は、乙の監禁行為の危険が現実化したものとして因果関係が認められる。

 なお、乙は、Aをトランク内に閉じ込めたままB車もろともAを焼き殺す意思で上記監禁行為に及んでいるが、この時点で、監禁行為が上記殺人行為に「密接な行為」であるとして、殺人罪(199条)の実行の着手及び殺人の故意を認めることはできない。なぜなら、殺人行為の現場として予定されていた本件駐車場は、乙が監禁行為に及んだ時点から時間にして1時間、場所にして20キロメートルも離れており、監禁行為と殺人行為との間には時間的場所的接着性が認められないからである。

 以上により、乙には監禁致死罪(221条)が成立する。

2.B車に火をつけ炎上させた行為

(1)まず、B車は自動車であるから、108条及び109条の客体である「建造物」等には該当しない。そこで、110条の罪が成立しうる。

 そして、「自己の所有」(110条2項)とは、行為者本人の所有物のみならず、共犯者の所有物も含まれると解されるところ、Bは甲の所有物であり、後述するように本件放火行為については甲・乙に共同正犯関係(60条)が成立するから、B車は乙との関係でも「自己の所有」する物といえる。

(2)乙はB車に火をつけて炎上させているから、「放火」して「焼損」したといえる。

(3)問題は、「公共の危険」が生じたといえるかである。「公共の危険」とは、108条・109条1項の客体に対する延焼の危険だけではなく、不特定多数人の生命・身体・財産に対する危険も含まれる。

 これを本件についてみると、本件駐車場にはB車の他に、C所有の自動車・D所有の自動車・E所有の自動車が、B車の北側の半径10メートル以内に存在していたところ、これらは不特定多数人の財産といえる。そして、乙がB車に放火した当時、北西に向かって毎秒2メートルの風が吹いていたことを考慮すれば、B車が炎上したことによる炎がC車・D車・E車に燃え移って炎上させる危険が生じていたといえる。実際には、放火後偶然風向きが変わったことにより、C車の左側面のすすけさせたにすぎないが、上記の放火時点においてC車等への延焼の危険を生じていたと認められる以上、「公共の危険」が発生していたと認められる。

(4)乙は、他の車に火が燃え移ることもないだろうと考えており、上記「公共の危険」の発生を認識していないが、この点は、110条2項の罪の成否に影響を与えない。なぜなら、110条1項は「よって」という文言を用いていることから、本罪は結果的加重犯の性格を有すると解されるところ、前述のように結果的加重犯の成立には、加重結果につき予見可能性ないし過失は不要であって、同様に、「公共の危険」の発生の認識も不要であると考えられるからである。

(5)以上により、乙には自己所有建造物等以外放火罪(110条2項)が成立する。

3.Aの死体を燃やした行為

(1)乙がAの死体をB車もろとも燃やした行為は、「死体」の「損壊」にあたる(190条)。

(2)もっとも、乙はAがまだ生きていると認識していたため、死体損壊罪(190条)の故意が阻却されるのではないかが問題となる。

 そもそも、故意責任の本質は、規範に直面したにもかかわらず、あえて犯罪行為に及んだことに対する責任非難にあるところ、規範は構成要件の形で与えられている。したがって、行為者の認識した事実と現に発生した事実とが異なる構成要件間にまたがる場合であっても、両構成要件に実質的な重なり合いが認められる場合には、その限度規範に直面していたといえるから、38条2項の趣旨に従い、軽い罪の故意が認められる。

 しかし、そもそも、殺人罪の保護法益は人の生命であるところ、死体損壊罪の保護法益な死者への敬意・平穏であって、両者の保護法益は全く異なるから、構成要件の重なりあいは認められない。

 したがって、乙がA死亡の事実を認識していない以上、死体損壊罪の故意が認めらない。

(3)よって、乙に死体損壊罪は成立しない。

4.罪数

 以上により、乙には、監禁致死罪(221条)及び自己所有建造物等以外放火罪(110条2項)が成立し、両者は併合罪(45条前段)となる。なお、後者については、甲との共同正犯(60条)が成立する(後述)。

 

第2 甲の罪責

1.Aに睡眠薬を飲ませて昏睡状態に陥れた行為

(1)甲は、Aに睡眠薬を飲ませて眠らせた上(第1行為)、AをB車のトランク内に閉じ込め、本件駐車場で車ごと燃やして殺害する(第2行為)意図で、Aに睡眠薬を飲ませ、昏睡状態に陥らせている。そこで、第1行為の時点で殺人罪(199条)の実行行為及び故意が認められないか。

(2)実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性のある行為をいうところ、構成要件に該当する行為を行う前の段階であっても、それに「密接な行為」をしたと認められれば、上記の危険が生じたものと認められるから、その時点で実行行為を行ったものといえる。

(3)これを本件についてみると、本件睡眠薬を5錠一度に服用させても昏睡状態に陥るのみであり、それによって死亡する可能性はなく、第2行為に及ぶ前にAが昏睡状態から回復し、周囲の人に助けを求めるなどして第2行為が実行されない可能性が存在していた。現に、第1行為から1時間後にAは意識を取り戻して、乙に助けを求めている。したがって、第1行為に成功すれば第2行為を行うにつき何らの障害も存在しなかったとはいえない。また、第2行為は第1行為から時間にして約2時間の隔たりがあり、本件駐車場までは距離にして20キロメートルも離れていたから、第1行為と第2行為との間には、時間的場所的接着性が認められない。

(4)よって、第1行為は第2行為にとって「密接な行為」であるとはいえないから、第1行為の時点で殺人罪の実行の着手及び故意を認めることはできない。

2.乙の監禁致死罪についての教唆犯の成否

(1)暴力団の組長である甲は末端組員である乙に対し、B車を燃やすように指示しているが、トランク内にAを閉じ込めていること秘していた。ところが、乙はその後甲の意図に気づき、その上で自らAを焼き殺す意思で、前述の監禁致死行為に及んでいる。すなわち、甲は主観的には殺人罪の間接正犯の意思で、殺人罪の教唆犯(61条1項)の罪を実現したものといえる。そこで、甲はいかなる罪責を負うか。

(2)間接正犯の意思で教唆犯の結果を実現した場合であっても、両者は他人の行為を利用する点で行為態様に共通性があり、間接正犯の故意は教唆犯の故意を含んでいるものといえるから、38条2項の趣旨に従い、軽い教唆犯の罪が成立すると解する。

(3)また、正犯である乙に成立した犯罪は、殺人罪ではなく監禁致死罪であるが、両者には人の生命という保護法益の共通性があり、行為態様の共通性も認められるので、構成要件の実質的重なり合いが認められるから、甲の故意は阻却されない。

(4)以上により、甲には監禁致死罪の教唆犯が成立する(221条、61条1項)。

3.乙の自己所有建造物等以外放火罪についての共同正犯の成否

(1)甲は乙に対し、B車を燃やすように指示しているが、甲自身は自己所有建造物等以外放火罪(110条2項)の実行行為を分担していない。そこで、同罪の共謀共同正犯(60条)が成立しないか。

(2)共同正犯の処罰根拠は、相互利用補充関係によって一つの犯罪を実現する点に求められるところ、このような関係は、必ずしも全員が実行行為を分担しない場合にも認められる。したがって、①二人以上の者が特定の犯罪を行う旨の共謀をなし、②各人が結果に対する重大な寄与を行い、③各人に正犯意思が認められる場合には、共謀共同正犯が成立すると解する。

(3)甲は、B車を本件駐車場において燃やすように指示し、乙はこれを引き受けているから、本罪を行う旨の共謀があったといえる(①)。甲、実行行為を分担していないものの、放火のためのガソリンを購入してB車に積んだり、放火に適した場所として本件駐車場を提案したりしているから、結果に対する重大な寄与が認められる(②)。さらに、甲は暴力団の組長であって、末端組員である乙に対して絶対的に優位な立場にあり、本件放火によって利益を受けるのも甲であるから、甲には本罪の正犯意思が認められる(③)。

(4)よって、甲には、自己所有建造物等以外放火罪(110条2項)の共謀共同正犯が成立する(60条)。

4.罪数

 以上により、甲には、監禁致死罪の教唆犯(221条、61条1項)、及び自己所有建造物等以外放火罪の共同正犯(110条2項、60条)が成立し、両者は併合罪(45条前段)となる。

以上

 

【感想】
クロロホルム事件が想起されたが、早すぎた構成要件の実現は甲だけでなく乙との関係でも問題になることに途中で気づいた。なんとか上記論点については言及したものの、少々疑問の残る結論となってしまった。自己所有建造物等以外放火については、「公共の危険」の発生のあてはめが非常に難しく感じられた。問題文が短かったので、時間には割と余裕があった。 

【平成25年司法試験再現答案】民事系第3問 ※旧ブログ記事転載

再現率:70%くらい

第1 〔設問1〕について

1.確認の利益の意義

(1)確認の訴えの訴訟物は理論上無限定である上、確認判決に執行力がないため紛争解決手段として迂遠であり、必ずしも紛争の抜本的解決になりにくい。そこで、確認の訴えの訴訟要件として、確認の利益が必要とされる。

(2)確認の利益は、原告の権利又は法律的地位に危険・不安が現存し、かつ、それを除去する方法として原告被告間で一定の権利又は法律関係の存否の確認をすることが有効・適切である場合に認められる。この判断にあたっては、①確認対象の選択の適否、②即時確定の必要性、③確認訴訟の選択の適否が考慮要素となる。

2.訴訟Ⅰに確認の利益が認められるかの検討

(1)訴訟Ⅰは遺言の無効確認の訴えであるところ、問題文の昭和47年判例は、遺言が有効であるとすれば、そこから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合には、わざわざ請求の趣旨を現在の個別的法律関係に換言して表現せずとも審理対象に明確さを欠くことはないこと、遺言という基本的法律関係の効力の確認により、確認訴訟の紛争解決機能が果たされることを理由に、確認の利益を認めている。

(2)もっとも、上記判例の事案は、相続人が原告を含めて6人もいた事案であったところ、本件においては、Aの夫は既に亡くなっており相続人はE一人のみであって、この点で両者の事案は異なっている。すなわち、相続人がEしかいない本件においては、甲1に関する遺言①をめぐる利害関係人はEとBのみである。

 このような本件事案の下では、Eは、わざわざ過去の法律関係である遺言の無効確認の訴えを提起する必要はなく、むしろ端的に遺言の無効を前提として甲1の明渡請求や所有権移転登記抹消請求をする給付の訴を提起すれば足り、これにより、EB間の紛争解決は十分に図ることができる。

(3)したがって、訴訟Ⅰは、遺言という過去の法律関係の確認である点で①確認対象の選択が適切でないといえるから、確認の利益を欠き不適法であるというべきである。

 

第2 〔設問2〕について

 遺言執行者は、「遺言の執行に必要な一切の行為」をする権利義務を有しており、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産についての処分権限を失い、当該処分権限は遺言執行者に帰属する(民法1012条、1013条)。問題文の昭和51年判例は、このことを理由に遺言執行者の被告適格を認めたものと解されるが、同判例の事案は、未だ相続財産につき受遺者への所有権移転登記が完了していない段階におけるものであった。

 これに対し、遺言執行者Dが遺贈を原因とするCへの所有権移転登記手続を完了した段階である本件訴訟Ⅱにおいては、甲2の所有権は確定的にCが取得し(民法177条参照)、遺言執行の職務すなわち「遺言の執行に必要な一切の行為」(1012条)は既に終了したものといえるから、相続財産に対する処分権限はもはや遺言執行者には帰属していないというべきである。したがって、昭和51年判例の根拠は、本件訴訟Ⅱにはあてはまらない。

 よって、訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあるのであって、遺言執行者Dには被告適格が認められないから、訴訟Ⅱは不適法である。

 

第3 〔設問3〕について

1.小問(1)について

(1)相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は、①被相続人による当該財産の所有権取得原因、②被相続人の死亡(民法882条)、③相続を主張する者が被相続人の子であること(887条1項)、の3つである。

(2)本件に即していうと、①Fが土地乙をJから買い受けたこと、②平成15年4月1日、Fが死亡したこと、③GがFの子であること、の3つとなる。

2.小問(2)について

(1)前訴裁判所が、上記請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができるかどうかは、弁論主義第1テーゼとかかる問題である。

(2)弁論主義とは、訴訟資料の収集を当事者の権能および責任とする建前をいい、第1テーゼとは、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の資料として採用してはならないという原則をいう。もっとも、当事者のいずれかが主張した事実であれば、裁判所はその者に有利・不利を問わず、裁判の基礎とすることができる(主張共通の原則)。

 このような弁論主義第1テーゼが適用される「事実」とは、主要事実すなわち法律効果の発生・変更・消滅を定める法規の構成要件に該当する事実に限られ、間接事実や補助事実は含まないと解する。なぜなら、間接事実や補助事実は、主要事実の存否を推認させる点において証拠と同様の機能を果たすため、裁判官の自由心証(民事訴訟法(以下、省略する。)247条)に服すべき事実だからである。

(3)本件前訴では、小問(1)で検討した請求原因のうち、①は被告であるHの方から主張されているが、②及び③についてはGHのいずれからも主張がなされていない。したがって、前訴裁判所が②及び③の事実を判決の基礎とすることは、第1テーゼに反し、許されないとも思える。

(4)もっとも、②及び③の事実は明確に主張こそされていないものの、生の事実としては弁論に現れていたものであった。

 すなわち、「土地乙は、Gの父Fからその生前に贈与を受けた資金でGがJから買い受けたものである」とのGの主張のうち、「Gの父Fから」との部分はGがFの子であること(③)を意味するものであるし、「その生前に」との部分は現在はFが死亡していること(②)を意味するものであって、生の事実としては弁論に顕出されていたといえるのである。

 そして、弁論主義の機能として不意打ちの防止があること、弁論主義第1テーゼは裁判所の行為規範としてだけでなく結果規範としての性質を有する(312条2項6号)ことに鑑みると、本件前訴のように事実そのものが弁論自体に現れている場合には、適切に釈明権が行使された上でなされる限り、これを判決の基礎としたとしても少なくとも当事者にとって不意打ちとはならないといえるから、結果規範としての観点からは弁論主義第1テーゼに反しないというべきである。

(5)よって、前訴裁判所は、適切に釈明権を行使したならば、当事者から主張されていない②及び③の事実を、判決の基礎にすることができると考える。

 

第4 〔設問4〕について

1.問題の所在

(1)確定判決における訴訟物の存否の判断には既判力が生じる(114条1項)。したがって、本件前訴の請求棄却判決により、Gに土地乙の所有権がないことにつき既判力が生じている。

 そして、本件前訴の訴訟物がGの土地乙に対する所有権であるのに対し、後訴の訴訟物はGのHに対する土地乙の所有権一部移転登記請求権であって、両者は先決関係にあるから、Gに土地乙の所有権がないとの前訴既判力は後訴にも及ぶ。その結果、前訴の事実審口頭弁論終結(以下、「基準時」という。民事執行法35条2項参照。)後の新事由がない限り、後訴は請求棄却となるはずである(既判力の積極的効力)。

(2)もっとも、前訴判決の理由は、土地乙をJから買い受けたのはGではなくFであるとの心証を抱いたためであり、GがFからの相続によって土地乙の所有権の一部を取得したことまでを否定するものではなかった。そして、前訴判決は、HがFから土地乙の贈与を受けた事実も認められないとの理由から、反訴であるHのGに対する土地乙の明渡請求をも棄却している。

 すなわち、前訴裁判所は、FがJから土地乙の買い受けたことを認定するのみで、それ以降の土地乙の所有権の帰趨については何ら認定していないのである。

(3)とすれば、前訴判決により、基準時においてGが土地乙の所有権を有していないことについて既判力が生じるとしても、その結論に至るためにあえて認定する必要がなかった事実(すなわちFがJから土地乙を買い受けた後の所有権の帰すうに関する事実)については、後訴においてこれを主張したとしても信義則上遮断されないと解する余地があるのではないか(遮断効の縮小)。本問で問題となるのはこの点である。

2.信義則を根拠として既判力の遮断効が縮小されるとの主張の検討

(1)問題文の平成10年判決は、金銭債権の明示的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情のない限り、信義則に反し許されないとしている。

 その理由は、一個の金銭債権における一部請求の当否を判断するためにはおのずから債権全部について審理判断することが必要となるところ、前訴の請求棄却判決は、残部として請求しうる部分が存在しないとの判断を示すものに他ならない。にもかかわらず残部請求をすることは実質的には紛争のむし返しであって、信義則に反するから、という点を挙げている。

(2)とすれば、これとは逆に、前訴請求の当否を判断するにあたって審理判断する必要のなかった事実については、請求棄却判決はその事実がないとの判断を示したものとまではいえないし、審理判断されていない以上、後訴でこれを主張したとしても実質的な紛争の蒸し返しともいえないから、信義則上、後訴において当該事実を主張することは前訴判決の既判力に遮断されないと解すべきである。

(3)これを本件についてみると、前述のように、前訴において請求棄却の結論を導くためには、土地乙をJから買い受けたのはGではなくFであるとの事実を認定できれば足りたのであり、その後GがFから相続によって土地乙の所有権の一部を取得したか否かについては認定する必要がなかった事実である。他方、Hの反訴も棄却されているのであるから、HがF以降の土地乙の帰趨について、解決済みであるとの信頼を生じる理由もなかったといえる。

(4)したがって、Gが後訴において、Fから相続によって土地乙の所有権の一部を取得したと主張することは、信義則上、前訴の既判力によって遮断されないというべきである。

以上 

 

【感想】 

設問1と設問2は配点との関係から簡潔に処理し、設問3・設問4をじっくり論じようという方針を立てた。設問3は、判例・通説の立場によって導かれる結論から、もう一歩踏み込んだ論述をしたつもりであるが、功を奏するかどうかはわからない。設問4は、今まで考えたことはなかったものの面白い問題だと思った。時間がなく思うような論述はできなかったが、一応の考え方の方向性は示すことができたのではないかと思う。

【平成25年司法試験再現答案】民事系第2問 ※旧ブログ記事転載

再現率:90%くらい

第1 〔設問1〕

1.EのFに対する甲社株式譲渡の有効性

(1)甲社定款5条によれば、甲社株式はその全てについて譲渡制限が付されており(会社法(以下、省略する。)107条1項1号)、その譲渡には取締役会の承認が必要とされている。

 本件では、EはFに対し、甲社株式50株を代金1億円で売る売買契約を締結している。そして、Eから甲社に対して、株式譲渡承認請求書が提出されており(136条)、かつ、甲社から何の連絡もなく2週間が経過しているから、145条1号により甲社の譲渡承認が擬制されるとも思える。

(2)しかし、甲社が何の連絡もしなかったのは、Aが他の取締役に対して、Eから譲渡承認請求があった旨を伝えなかったためである。すなわち、Eの譲渡承認請求は、承認機関である甲社の取締役会に認識されていなかった。

 そもそも、145条1号の趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主として参加するのを防止するという会社の利益と株式取引の安全との調和を図る点にあるところ、後者が前者に優越したといえるのは、譲渡承認請求があった旨を承認期間が認識したにもかかわらず、なお2週間にわたって通知を怠った場合に限られる。

 とすれば、Eの譲渡承認請求は、承認機関である甲社の取締役会に認識されていない本件では、

そもそも「会社に対し」(136条)譲渡承認請求がなされたとはいえず、145条1号による承認擬制の前提を欠くというべきである。

(3)よって、本件では145条1号の適用はなく、EのFに対する甲社株式の譲渡は甲社に対する関係では効力を生じないと解すべきである。

2.平成25年総会においてFを株主として取り扱うことの当否

(1)前述のように、定款による株式譲渡制限の趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主として会社に参加することを阻止する点にあるから、譲渡承認のない株式譲渡は会社との関係では無効である。したがって、会社は譲受人を株主として取扱うことは原則として許されない。

 もっとも、譲渡につき株主全員の同意がある場合には、会社の利益を害さず、譲渡承認に代替する機能があるといえるから、会社が譲受人を株主として取り扱うことも許されると解すべきである。

(2)これを本件についてみると、平成25年総会においては、株主であるA・B・C・D全員が出席しており、Fの議決権行使に対して何らの異議も述べていないから、株主全員の黙示的な同意があったともいえそうである。

 しかし、FはDを代理人として議決権を行使しており(310条1項)、総会の場には現れていない。すなわち、Fが本件株式譲渡を受け、平成25年総会において株主として議決権行使しようとしていることはDとAを除く株主には認識されていなかったのであるから、そもそも黙示の同意を擬制すべき前提を欠いているといえる。

(3)よって、Fの議決権行使に対し株主全員の同意があったものと解することはできないから、甲社が平成25年総会においてFを株主として取り扱ったことは違法である。

 

第2 〔設問2〕

1.小問(1)について

 Bは、以下の3点を決議取消事由として主張し、本件報酬決議の取消の訴え(831条1項柱書)を提起することが考えられる。以下、それぞれの決議取消事由につき検討する。

(1)本件報酬決議が招集通知に記載されていない議案に関する決議であった点

 甲社は取締役会設置会社であるから(定款8条1項)、309条5項本文が適用されるところ、本件報酬議案は、招集通知に記載されていない事項であった。

 Aは、平成25年総会の席上で、本件報酬議案を提案しているが、これは総会期日の8週間前までの請求を必要とする株主の議題提出権(303条1項)に該当するものではない。また、本件報酬議案は、目的事項である第1号議案・第2号議案のいずれとも関連しないものであるから、株主の議案提出権(304条)にも該当するものではない。

 したがって、本件報酬決議が招集通知に記載されていない議案に関するものであったことは、309条5項本文に反するものとして、決議方法の法令違反に該当する(831条1項1号)。そして、309条5項本文の趣旨が、事前に目的事項を通知することによって株主に熟慮する機会を与える点にあることからすれば、上記法令違反は重大であり、裁量棄却(831条2項)は許されないというべきである。

(2)Bによる120個の議決権行使を無効として取り扱った点

 Aは、Qが有していた120株の甲社株式につき、権利行使者の指定にAの同意がないことを理由に、Bの120個の議決権行使を無効として取り扱っている。

 しかし、共有株式の権利行使者の指定(106条文本文)は、共有物の管理行為にあたるものとして持分の過半数で決すべきところ(民法264条、252条本文)、本件のBを権利行使者とする決定については、共有持分の等しいABCのうち、BCが合意をしているのであるから、上記権利行使者の指定は有効になされていたというべきである。

 したがって、上記Aの取扱いは106条本文に反するものとして、決議方法の法令違反に該当する(831条1項1号)。そして、上記議決権行使が有効であれば、反対票が520票となって本件報酬決議は否決されていたといえるから、決議に影響を及ぼすことが明らかな法令違反であり、裁量棄却(831条2項)は許されない。

(3)後に2億円の取締役報酬を得ることになるAが議決権行使をしていた点

 831条1項3号にいう「特別の利害関係を有する者」とは、当該決議がなされることによって他の株主が得られないような利益を得る株主をいう。

 これを本件のAについてみると、確かに、Aは本件報酬決議を経た上で、その後の取締役会でAの報酬を2億円に引き上げることを企図しており、またそのように実行している。しかし、本件報酬決議そのものは、取締役全員の報酬の総額を年3億円に引き上げるというものであって、これ自体は他の取締役であるBC等にとっても利益となりうるものであった。

 したがって、本件報酬決議の段階では、Aが他の株主が得られないような利益を得る危険は未だ現実化していたとはいえないから、Aは「特別の利害関係を有する者」にあたらないというべきである。

 よって、本件報酬決議に831条1項3号の取消事由は認められない。

2,小問(2)について

(1)361条1項は取締役の報酬につき株主総会の決議が必要としている。したがって、報酬決議が取り消されれば、その遡及効(839条反対解釈)により、当該報酬の支払いは「法律上の原因」(民法703条)を失うことになる。

(2)よって、小問(1)で述べた事由により本件報酬決議が取り消されれば、甲社はA・D・Gに対し、不当利得として支払済み報酬の全部の返還を請求することができる(民法703条704条)。

第3 〔設問3〕

1.①11の時点で採ることができる手段

(1)Bとしては、本件募集株式発行の差止請求をすることが考えられる(210条)。

(2)この点、本件募集株式の発行は、株主総会の決議を経ることなくなされているが、本件のような株主割当の場合には、株主総会決議は不要である(202条5項)。したがって、株主総会決議がないことを法令違反として、本件募集株式発行の差止め(210条1号)を求めることはできない。

(3)210条2号の「著しく不公正な方法」とは、不当目的を達成する手段、すなわち現経営者の支配権を維持することを主要な目的として株式発行を用いる場合をいう(主要目的ルール)。

 本件募集株式の発行は、Aが甲社における自己の支配権を確立する目的で行ったものであるから、「著しく不公正な方法」に該当することは明らかである。

 したがって、Bは本件募集株式発行の差止めを請求することができる(210条2号)。

2.②12の時点で採ることができる手段

(1)Bとしては、本件募集株式発行の無効の訴えを提起することが考えられる(828条1項)。

(2)この点、新株発行の無効原因について明文の規定はないが、株式取引の安全を図る必要性が高いことから、会社や株主の救済が著しく困難といえるような重大な瑕疵に限定すべきである。

(3)前述のとおり、本件募集株式発行については「著しく不公正な方法」の瑕疵があるが、このような瑕疵は、一般論としては無効原因たりえない。

 なぜなら、「著しく不公正な方法」による発行の瑕疵は、本来差止請求によって救済されるべきものであって(201条2号)、発行後は取引の安全を優先すべきだからである。

(4)もっとも、甲社は発行株式全部につき譲渡制限を付しているところ(定款5条)、このような非公開会社(2条5号反対解釈)における新株無償割当てについては、「著しく不公正な方法」の瑕疵も無効原因になると解すべきである。

 なぜなら、①通知・公告制度(201条3項・4項)がない非公開会社の新株発行においては、株主総会が唯一の情報公開の場であるところ、前述のように新株無償割当てについてはそもそも株主総会決議が不要であって(202条5項)、株主は新株発行に関する情報を入手することができず、差止請求(210条)による事前救済を期待することができない反面、②非公開会社においては株式の流通性が乏しく、取引安全の要請が小さいといえるからである。

(5)したがって、Bは、本件募集株式発行が「著しく不公正な方法」によるものであったことを無効原因として、無効の訴えを提起することができる(828条1項・2項)。

以上

 

【感想】

全体を通じて論ずべきことが多いと思ったが、答案の筋は短時間で立てることができた。基本的な判例の考えを応用することで対応できる問題だと感じた。設問3については、甲社が非公開会社である点をどのように考慮するかがポイントだと思い、最判平成24.4.24を念頭において論述した。内容・分量ともに自分としては満足のできる出来だった。